れきし
歴史 上 岩波文庫 青 405-1
流れの最中にあって、その位置を確かめる困難。ガリレオの(そしてニュートンの)相対性原理は、たぶんこんな風にも説明される。そして、それは多分、「歴史の流れ」の中で「歴史」を記述しなければならない、歴史家の困難でもあるだろう。
「時の流れ」を「時の刻み」として知るためには、流れにスケール(ものさし)をあてがわなければならない。そして「時の流れ」の外にあるものなど何もないのだから、そのスケール(ものさし)もまた「時の流れ」の中から取り出されなければならない。歴史家が、まるで「時の流れ」の外に立っているかのように書くことができるとしたら、それは取り出されたスケール(ものさし)故にだ。
しかし歴史家が、今のようなスケール(ものさし)を時間にあてがうことができるようになったのは、そう古い話ではない。「歴史の父」たちは、西暦のような年号、共通の「時の刻み」を用いることはなかった。そんなものはまだ存在しなかったからだ。
「歴史の父」たちは、時間の中で起こった事どもを記述するために、「時の流れ」にあてがうことのできる「時の刻み」を必要とした。けれど、それも「時の流れ」の中から、作り出さなければならなかった。
繰り返されるもの、続いてきたもの、にまず目がつけられた。誰それはどの時代に生きた人か? 彼は第7回オリンピックの時に、男盛り(40歳程度)だった。といった具合だ。
司馬遷は、皇帝の交代・連鎖(「本紀」)を、他すべてを同期させる「外部クロック」として、「時の流れ」の中から抽出した。「時間」がこうして歴史の中から取り出され、そうして歴史にスケールとしてあてがわれた。
「歴史の父」ヘロドトスが採用したのは、皇帝(の交代・連鎖)でなく「帝国」そのものだった。「帝国」とは、具体的にはアケメネス朝ペルシャであり、そして抽象的には「拡張そのもの」、つまり「侵略線の軌跡(locus)」として定義されるような時空間延長体である。ペルシャ帝国は、「時の流れ」とともに、侵略をつづけ、拡張し続ける。ヘロドトスは、世界のそれぞれ(種族、地域、出来事)を、それぞれが「帝国(の拡張)」と遭遇した順序に従って、記述する。
歴史的事実と民俗誌的記述と地理・博物誌が、つまり時間的事象と空間的事象の両方が、「帝国」というクロックによって、「記述」という一次元構造にふさわしいように、整列・順序化されるのだ。実のところ、(何らかの)整列・順序化の末に「時の流れ」が見出され、整列・順序化という操作が背景に退くことで、「歴史」がようやく登場するのである。だから彼は、「歴史の父」であって、「最初の歴史家」ではないのだろう。
- ヘロドトス
- 岩波文庫
- 商品名: 歴史 上 岩波文庫 青 405-1
- 価格: ¥1,050
- 著者: ヘロドトス
- 出版社: 岩波書店
- 発売日: 1971-12-16
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- 2007/08/30更新
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