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わすれられたにほんじん

忘れられた日本人 (岩波文庫)

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「対馬にて」一 寄り合い から

【主要命題】
 「村の伝承」は組織の意志決定のための大事なリソースだった。

【少し詳しい説明】
1 まずメンバーが、意志決定に参加するためのルートになる。反対にせよ賛成にせよ、直接主張するのでなく、誰もが心当たりのある「伝承=エピソード」でもって話せば、差し障りがすくない。意志決定後も、密接な関係のうちに暮らしていかなければならない村人としては、洗練された意思表明の方法である。

2 組織の意志決定を通じて組織の維持・再生産を行うためのリソースでもあった。意志決定のために参照された「伝承=エピソード」は繰り返し再利用され、そのことが組織文化を形成していく。「伝承=エピソード」の解釈は多様であるから、くわえて相矛盾する「伝承」が存在するから、さまざまな場面に適用可能である(まるでことわざのように)。一般の「ことわざ」と違い、その組織に固有のものであるから、活用されればされるほど、組織のアイデンティティを固めることにもなる(つまりそうした「伝承」を理解し、活用できるかどうかが、組織の意志決定への参加を左右するからだ)。

3 たくさんの時間をつかうことも特徴的である。(日本の組織の、会議時間が長い/そのくせ何も決まらないし、誰が決めたのかもわからない、というのは、この伝統によっているのかも)。ここでは合理的で明確な評価基準も、それによる複数代替案の評価も明示的には行われていない。しかし多くの「伝承」に突き合わせられることで、問題はさまざまな面から検討されている。

【補助命題】
 話し合いは時間がかかる。
 (しかし眠たくなり、言うことがなくなれば帰っていいのである)

【事例紹介】

p13「……村でとりきめをおこなう場合には、みんなの納得のいくまで何日でもはなしあう。はじめには一同があつまって区長からの話をきくと、それぞれの地域組でいろいろに話し合って区長のところへその結論をもっていく。もし折り合いがつかねばまた自分のグループへ戻って話し合う。用事のあるものは家に帰ることもある。ただ区長・総代は聞き役・まとめ役としてそこにいなければならない。とにかくこうして二日も協議がつづけられている。この人たちにとっては夜もなく昼もない、ゆうべも明け方近くまで話し合っていたそうであるが、眠たくなり、言うことがなくなれば帰っていいのである」

p16「私にはこの寄り合いの情景が目の底にしみついた。この寄り合い方式は近頃はじまったものではない。村の申し合わせ記録の古いものは二百年近いまえのものもある。それはのこっているものだけれどもそれ以前からも寄り合いはあったはずである。70をこした老人の話ではその老人の子どもの頃もやはり今と同じようになされていたという。ただちがうところは、昔は腹がへったら家へ食べにかえるというのでなく、家から誰かが弁当を持ってきたものだそうで、それをたべて話をつづけ、夜になって話が切れないとその場へ寝るものもあり、おきて話して夜を明かす者もあり、結論がでるまでそれが続いたそうである。といっても三日でたいていのむずかしい話もかたがついたという。気の長い話だが、とにかく無理はしなかった。みんなが納得のいくまではなしあった。だから結論が出ると、それはキチンと守らねばならなかった。話といっても理屈をいうのではない。一つの事例について自分の知っている限りの関係のある事例をあげていくのである。話に花が咲くとはこういう事なのであろう。」

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2/21 追加
こんなのもある。

p100「子どもをさがす」から

「共同体の制度的なまた機能的な分析はこの近頃いろいろなされているが、それが実際にどのように生きているか。ここに小さなスケッチをはさんでおこう」

#子どもが消えて、家から出てくる
#村人が放送を聞いて、思い思いに、しかし大変計画的に探した。

「ということは村の人たちが、子どもの家の事情やその暮らし方をすっかり知り尽くしているということであろう。もう村落共同体的なものはすっかりこわれ去ったと思っていた。それほど近代化し、選挙の時は親子夫婦の間でも票のわれるようなところであるが、そういうところにも目に見えぬ村の意志のような者が動いていて、だれに命令せられるということなしに、ひとりひとりの行動におのずから統一ができているようである。
 ところがそうして村人が真剣にさがしまわっている最中、道にたむろして、子のいなくなったことを中心にうわさ話に熱中している人たちがいた。子どもの家の批評をしたり、海へでもはまって、もう死んでしまっただろうなどといっている。村人ではあるが、近頃よそから来てこの土地に住み着いた人々である。日頃の交際は、古くからの村人と何のこだわりもなしにおこなわれており、通婚もなされている。しかし、こういうときには決して捜査に参加しようともしなければ、まったくの他人ごとで、しょうのないことをしでかしたものだとうわさだけしている。ある意味で村の意志以外の人々であった。いざというときには村人にとっては役に立たない人であるともいえる」

#我々が知る/イメージする「近所づきあい」は、この「近頃よそから来てこの土地に住み着いた人々」のものに近い。多分誰もが「村の意志」を欠いた「近所づきあい」に。

忘れられた日本人 (岩波文庫)

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kurubushi
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  • 著者: 宮本 常一
  • 出版社: 岩波書店
  • 発売日: 1984-05-16
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  • 2007/08/30更新
  • 2003/02/19登録
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コメント (6)

最新コメント5件

2003/02/20

kurubushi 宮本常一の本はどれもお勧めです。日本人が、個人単位だけでなく集団の中で、伝承や振る舞いやしきたりとして持っていた「知恵」が満載です。

2003/02/21

kurubushi  鉄道は人間性の邪悪な面を強くおもてに出した。悪人はこれから邪まな計画をいっそう手早く成しとげる。……その上、鉄道は懐疑主義と絶望の原因でもある。なぜなら旅行が容易になると、人間は多種多様な自然と宗教に接することになり、その結果、人間は途方に暮れてしまうのだ。 (マハトマ・ガンジー) うーん、ガンジー、そんなやつだったのか。

島崎丈太 子供を捜すの項、ちょっと驚きました。 村民とはもう既に擬似家族みたいな(というと家族の定義がまたややこしそうですが)濃度の関係を持った共同体なので、ヨソモノとはそういう差異があるんですね。 自分自身は幼少の頃から父親の転勤の関係で5回の引越しを経験しているので、全然こういう感覚に触れたことが無かったのです。

島崎丈太 ガンジーの項(感想)も非常に刺激的な言葉ですので、是非、別のKWにして下さいよ>kurubushiさん

島崎丈太 いや、勿論、mobilityの意味で、上の項と接続されていることは理解しているんですけど・・・ 鉄道(機械力による高速移動手段)に対する、そういう考えっていうのも、言われてみればそうかも知れないけれど、ガンジーが言っていた、というのが意外というか驚きというか。

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