自由・平等・博愛
『オリーブの森で語り合う』(岩波書店)で、エンデは、フランス革命の三つの理想、自由・平等・友愛に触れ、理想社会を構築したいと思う全ての人間のモットーとなったこのスローガンに触れて、
「これまでみんなは、いつも、この3つをひとつの鍋にぶちこもうとしてきた。統一国家をつくって、そこで3つの理想を可能なかぎり実現しようと考えていたわけだ。そのさい、まったく気づかれなかったこと、あるいは、気づこうとしなかったことがある。それはね、国の使命は、理想を3つとも実現することじゃなくて、ひとつだけ実現すればいいってことなんだ」
と述べ、その「ひとつ」を「法のまえでの平等」であるとする。残りの自由と友愛については、他の生の領域に属するものであり、それには国はタッチすべきではないというのである。
「自由な精神」とは各個人の才能や自分独自の生き方を探ることを指し、それに関しては「どんな一般化もまちがっている」、つまり「「精神」は各人各様の能力におうじて、それぞれ独自のかたちに形成されなければならない」としており、残った「友愛」については、本人自身「現代においては、なんとも素朴、いやそれどころか滑稽にすらきこえるかもしれないのは承知で」と前置きしてから、「友愛は近代「経済」に内在している掟である」という。
エンデは、シュタイナーのいう「社会有機体の三分節化(1919)」を下敷きにしている。「世界史は《経済》《法律・政治》《精神・文化》の三分節化を目指して発展してきた」というシュタイナーは、この3分節のそれぞれに、やはりフランス革命の三つの理想、自由・平等・友愛を対応させている。エンデが示したとおり、この対応は現代人が普通に予想するものとは異なっている。
自由=精神・文化
平等=法律・政治
友愛=経済
「自由」が対応するのは経済ではなく、精神である。そして経済が要求する理想は「自由」ではなく「友愛」である、というのである。
岩田昌征(『現代社会主義の新地平』(日本評論社))は、「自由・平等・友愛」の3つの理想がもつ経済的含意を豊かなカタチで抽出している。おおざっぱに述べれば、それらはいわゆる「私」「公」「共」の領域と重なっていく。
┏━━━━━━━┳━━━━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━┓
┃次 元 ┃ 第一系列 │ 第二系列 │ 第三系列 ┃
┣━━━━━━━╋━━━━━━━┿━━━━━━━┿━━━━━━━┫
┃経済人類学 ┃交換 │再分配 │互酬 ┃
┃近代的価値 ┃自由 │平等 │友愛 ┃
┃経済メカニズム┃市場メカニズム│計画メカニズム│第三メカニズム┃
┃所有制 ┃私的所有 │国家的所有 │社会的所有 ┃
┃経営管理 ┃私的経営 │国家的経営 │自主管理 ┃
┃分配様式 ┃賃金と利潤 │固定賃金表 │所得分配協議 ┃
┃人間類型 ┃極大化タイプ │標準化タイプ │適量化タイプ ┃
┃権利と責任 ┃個権・個責 │集権・集責 │共権・共責 ┃
┃社会問題 ┃不安と安 │不満と満 │不和と和 ┃
┃人間関係 ┃原子化 │位階化 │相互規制 ┃
┃社会構造 ┃階級社会 │階層社会 │連体社会 ┃
┃政治的決定 ┃多数決 │統裁合議 │全員一致 ┃
┃家族関係 ┃夫婦関係 │親子関係 │兄弟姉妹関係 ┃
┃象徴的死 ┃自殺 │他殺 │兄弟殺し ┃
┗━━━━━━━┻━━━━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━┛
それぞれの経済メカニズムについて、岩田昌征の数値例をつかって概観しよう。
自動車を(利益込みで)400万で売るAさんと200万で売るBさんがいる。Bさんはより高い技術を持っていて、より安く自動車を作ることができる(生産性が高い)ので、200万で売っても充分利益があるのである。一方、自動車を買うのに400万出せるaさんと、200万しか出せないbさんがいる。
このような4人がそれぞれの経済メカニズムにおいて取引するしよう。
A.市場メカニズムにあっては、一物一価が成立する。
このことが市場から退出させられる者と、市場から利益(生産者余剰や消費者余剰)を得るものとを生む。
供給曲線:
自動車の価格 200万未満 ……供給される自動車0台
自動車の価格 200万以上400万未満……供給される自動車1台
自動車の価格 400万以上 ……供給される自動車2台
需要曲線:
自動車の価格 200万以下 ……需要される自動車2台
自動車の価格 200万より上、400万以下……需要される自動車1台
自動車の価格 400万より高額 ……需要される自動車0台
供給曲線と需要曲線の交点、すなわち
自動車の価格 200万より上400万以下(たとえば300万円)で、自動車1台が取引される。すなわち、自動車を売ることができるのはBさんだけであり、自動車を買うことができるのはaさんだけである。
B.計画メカニズムにあっては、一物二価(生産価格と販売価格))が成立する。このことで余剰を再分配し、市場からの退出者をなくす(補助金と税金のシステムなどもそう)。
自動車の生産価格を400万円
自動車の販売価格を200万円
とすることで、市場から追い出されていた者にも(400万で売るAさんと200万しか出せないbさん)取引に参加できるようになる。
生産価格と販売価格の差はどう埋めるのか。この2重価格においては、200万で売るBさんは、400万円の生産価格では200万円の生産者余剰が400万出せるaさんは、200万円の販売価格では200万円の消費者余剰がそれぞれ生まれる。つまりBさんとaさんが得した分を集めて、生産価格と販売価格の差を埋めるのである。この意味で計画メカニズムは、再分配によるシステムであるといえる。
C.協議メカニズムにあっては、一物多価が成立する(価格は個々の関係と
ケースに応じて異なり得る)。
今回のような数値例の場合では、なるべく取引から脱落する者が出ないように何らかの方法でコーディネートすることができるなら、400万で売るAさんと400万出せるaさんとの間でひとつの取引が、200万で売るBさんと200万しか出せないbさんとの間でもうひとつの取引が成立する。この場合、(強力な執行権力を必要とする)再分配は不要である。
振り返るならば、市場メカニズムは、誰かの所行が価格に影響を与えないことを、すなわち無数の(充分多数の)供給者と需要者の参加を前提としている。
市場システムが要求する、取引に参加する人々がそれぞれ匿名の存在になるほどの「多数性」は、協議メカニズムでは障害となる(「数え切れない」ほど多数を相手にしたコーディネートは現実的ではないだろう)。逆にコーディネートと、相互監視が可能となるほどの少数との関係(「顔が見える関係」)が、ここでは必要となる。
- 『オリーブの森で語り合う』
- (岩波書店)
- 「社会有機体の三分節化」
- シュタイナー
- 『現代社会主義の新地平』
- (日本評論社)
- 2003/02/21更新
- 2003/02/21登録
- 3155クリック
このキーワードを共有する
-
トラックバック(0)









