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ヒユークリッドキカノセカイ

非ユークリッド幾何の世界

直線外の1点を通ってこの直線と平行な直線は1本だけ引ける。三角形の内角の和は2直角。これはユークリッド幾何学の世界。非ユークリッド幾何学の世界ではそうならない。この本は非ユークリッド幾何学の入門書。説明図が多く、対話形式で書かれていて読みやすい。難しい数式も出てくるが、気にしなくて大丈夫。私はこの本を中学2年のときに買って、ほとんどの数式をとばして読んだ。数式が多い後半は余裕のある人向け。

ユークリッドが著した「原論」の最初には、用語の定義に続いて公理と公準が書いてある。公理・公準とは議論に先立ってあらかじめ認めておく基本的な事柄。たとえば「任意の点から任意の点に直線を引くことができる。」とか「すべての直角は等しい。」とか。ところがこの公準の中に、不自然に長いものがある。

「1直線が2直線に交わり、同じ側の内角の和を2直角より小さくするならば、この2直線は限りなく延長されると、2直角より小さい角のある側において交わる。」

この「平行線公準」はどうも怪しい。ほかの公理・公準から導き出せる定理なのではないか?多くの数学者がそう疑ったけれど、どうしてもそれを証明することができなかった。できないはずだ。平行線公準は平面上の幾何学を仮定していただけだったのだから。この公準を否定しても矛盾のない幾何学が成立する。それが曲面上の幾何学、非ユークリッド幾何学だ。非ユークリッド幾何学の世界では、直線外の1点を通ってこの直線と平行な直線が2本以上引けたり1本も引けなかったりする。三角形の内角の和も2直角ではない。地球儀をイメージして、赤道上の任意の2地点と北極点を結んだ三角形を考えると、その内角の和が2直角より大きいことが分かるだろう。

この本で印象的なのは非ユークリッド幾何学の発見に至る数学史の部分。数学者の世界も人間社会だから、ピストルで決闘して死んだガロアのようなアクション物は珍しいとしても、そこには心を動かすドラマがある。とりわけ敗者のドラマは胸を打つ。この本にはガウス、ロバチェフスキー、リーマンなども登場するが、著者は特にボヤイ・Wとボヤイ・Jの親子にページを割いている。父も息子も平行線公準の研究にはまり込んで人生をボロボロにしたあげく、その論文が世に知られることもないまま、ハンガリーの英雄になり損ねて死んでいった。悲運の一言に尽きる。

当たり前と思っている常識も、よく考えてみれば、一つの立場に過ぎない可能性がある。この本を読んで、それをはっきり意識した。絶対的に正しいと信じて従っていたルールの大半も、実は平行線公準と同じように変更可能な約束事ではないか。こうなると、どんな規則も真に受けて、それを守るのが爽快感と優越感だった小学生時代がウソみたいだ。“中二”とはうまく言ったもので、この年頃に最初のパラダイムシフトが訪れるようになっているらしい。

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