Mercury Rev / All is Dream
人の夢はただただ儚い、考えてみればそんなものなのかもしれない。でも、僕は夢をみなければ人は人でなくなってしまうようなそんな気がして、その醒めていく感覚をなんとか日々押し殺している。そんなとき『All is Dream』のファースト・トラック”The Dark Is Rising”(#01)の壮大なオーケストレーションサウンドを耳にすることで、「夢というものは全て希望へと繋がっていく」そんな瞬間を得たような(それが錯覚であったとしても)幸福感を味わうことができたりする。猜疑心にさいなまれながら、日々を過ごす貧しい心をもつ僕には、こんな音楽がたまらなく必要なのだ。
ニューヨーク州のアップステイト、バッファローにてマーキュリー・レヴは結成。自分達や友達が作っていた実験映画のサウンドトラックを作る手段としてレコーディングを開始したのがバンドの始まりだった。結成当時は、現在のメンバーであるジョナサン・ドナヒュー(vo&acoustic g)グラスホッパー(moth-light g&etc)、デイヴ・フリッドマン(b&mellotron)に加えて、デヴィッド・ベイカー(vo)、スザンヌ・ソープ(flutes)、ジミー・チェンバース(percussion)の6人編成であった。余暇を使ってNYのフレドニアにある小さなスタジオでデモを録音している程度の活動であったが、そのデモがイギリスのJungle/Mintレーベルのオフィスに届き、バンドは契約に至った。(公式HPより抜粋)
澄みとおった音とノイズの交じり合うマーキュリー・レヴの世界は評論家受けするものの、残念なことにマニアの域を出ることのない狭い範囲での活動を余儀なくされた。セカンド・アルバム発表後、姿勢の違いからデヴィッド・ベイカーが脱退。現在ヴォーカルのジョナサンはここから本格的にヴォーカリストとしての活動をはじめた。時同じくしてデイヴ・フリッドマンがサウンド・エンジニアリングとプロダクションに焦点を置き、バンドのツアーには今後参加しないことを表明。バンドは確実に転換期を迎えた。なので、その直後発売された3rd『See You On The Other Side』にリスナーは驚きを隠せなかった。ジャズやポップをカオスのように混ぜ合わせる実験姿勢が続き、バンド自体も困惑の時を過ごすことになる。その中でもジョナサンは普段から思い描くファンタジーの世界を音に反映してみたいと錯誤を繰り返し、周囲に翻弄されることなく曲を書き連ねていった。
そして、彼らは遂に暗闇から光を呼び込む。4th『Deserter's Songs』(98)で天空を突き抜けたアルバムをマーキュリー・レヴは創り上げることに成功した。NMEのアルバム・オブ・ジ・イア-やメロディーメーカー誌3位など評論家の後押しはいつも以上で、リスナーも完全に手中に収めた。『All is Dream』はその次のアルバムにあたり、もはや世界が待ち望む形でアルバムをリリースすることになったのだ。
このアルバム、実はジャック・ニッチェというプロデューサに捧げられている。ジャックは4thのコード進行をいたく気に入り、今作のプロデュースを心から祈っていた。ところがアルバムレコーディングの1週間前に彼は急逝。電話などでジャックとのおおまかな打ち合わせを終了していたメンバーは彼の要求するサウンドに限りなく近づけた作品を完成させる。
浮世離れしたような立体的サウンドはデイヴ・フリッドマンの面目躍如たるものだが、自分のバンドということもあってか、浮遊感はどのプロデュース作品より強い。シンセサイザーやアコースティックサウンドを上手く取り込んだ前作はまだ作為的な雰囲気を漂わせていたが、今作はジャックが要求したといわれる過去の音を並べていくという優しい作業が中心に行われている為、自然な仕上がりとなっている気がする。”Lincoln's Eyes”(#04)や”Hercules”のコード進行をじっくり聞いてみると、実にオーソドックスなサウンドが根底にあることがわかる。それが、オーケストレーションを巧みに取り入れることで、斬新な夢のような気持ちのいいサウンドに仕上がる。全ては気持ちよく抜けきっていくのだ。
ジョナサンの語る話は決してありもしないことを述べているのではない。夢見がちな男だからこそ知り得た、希望という名の光り輝く音がその中に雑ざりこんでいるため、リアルさを持っているのだ。
考えなおしてみれば人の一生なんて夢のような毎日の連続だ。だったら全てを夢に塗り替えてしまえばいいのだ。
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