ポール・ヴァレリー
(1871~1945)詩人、批評家。
たぶん、これほど生涯の殆どを思索に費やした人物は歴史上後にも先にもいないような気がするとんでもない人物。
戦前は今世紀最大の知性とよばれたものの、戦後になって影が薄くなってしまった観あり。でも、彼の提出した芸術に関する問題は、今なお新鮮だと思う。
「海辺の墓地」などを代表する詩も素晴らしい。最近は詩集もあまり見かけないので、紹介の意味も込めて、大好きな「失われた酒」の拙訳を載せておきます。
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失われた酒
ある日、僕は浜辺で、
(でも、どこの空の下かもう憶えていない)
虚無への供物として、
大切な酒の幾滴かを海に捧げた。
誰がこの酒が失われるのを望んだのだろう。
或いは占いの言葉に従ったのか。
或いは心の迷いの中で、
血を思いながら酒を注いだのか。
その永遠の透明に、
一瞬の薔薇色の煙を残して、
再び純潔をとりもどした海。
酒は失われ、波は酔いしれていた。
そして僕は、苦い水面(みなも)の空に、
深々としたかたちが浮かび上がるのを見た。
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