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歴史学者の渾身のメッセージ

荒廃する世界のなかで――これからの「社会民主主義」を語ろう

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表題に社会民主主義という言葉がありますが、全体を通した印象は、市場主義の行き過ぎと政治・国家の弱体化で、現代の私たちは途方もない間違いを犯しているのではないかという不安にさいなまれながら生きている。ここから脱出するには、資本主義VS社会主義(共産主義)という物語から脱出して、道徳感情をベースに新しい言説を構築し、社会問題を問い直すことが必要だというジャットのメッセージです。
前半は史実を中心に政治、経済政策について語っていきますが、中段以降ジャットの語りは熱を帯びてきます。
五章「何をなすべきか」ではこのように述べています。

「私たちは、私たちを統治している連中をどう批判すればいいのか学び直さねばなりません。しかし、信頼性を伴う学び直しのためには、私たちは自分も彼らと同じように閉じ込められている、あの順応性の圏域から自分を解放する必要がある」(p179)

ここでいう順応性の圏域とは、私たちが過去の歴史から教訓として学んだと思われる、一般に流布している言説をそのまま無批判に前提として取り入れてしまうことですが、そういうやり方だけでは、今の社会の行き詰まりを変革することはできないと、ジャットは論じています。

そして、ここでアダム・スミスの「道徳感情論」も想定しながら、僕に取ってはびっくりするような言説がありました。そのまま引用します。

「私たちはすべてギリシア人の子どもです。私たちは直感的に、道徳的方向感覚の必要性を理解しているのです。しっかり考え抜かれていない生活など、たいした値打ちはないと感じるのに、ソクラテスに通暁する必要はありません。生まれながらのアリストテレスとして、私たちは正義が慣習として実践されているのが正しい社会であり、人々が行儀良く振る舞うのが良い社会であると考えているのです」(p200)
まるで、いま勉強しているアリストテレス政治学の先生が、ジャットに乗り移ったかのような言葉でした。なぜ今アリストテレス研究が米国、中国で力を入れているのか、その理由がこの言葉ではっきり理解できました。

少なくとも僕にとっては、サンデルの正義論よりこの本のメッセージの方が強く響きました。
著者のトニー・ジャットは1948年ロンドン生まれの歴史学者です。主著は2005年『ヨーロッパ戦後史(上・下)』(みすず書房)で、これはピュリツアー賞の最終候補になったそうです。2007年にはハンナ・アーレント賞を受けました。残念ながら今年8月に筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で亡くなりました。

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