NIRVANA / IN UTERO
93年作品。ニルヴァーナのサード・アルバムにしてラスト・アルバム。自分が必死に築いてきた地盤はどんどん崩れ去っていき、偶像に期待する見たこともない人間のプレッシャーに囲まれ、心を失っていくことへの反発と従順を重ねた、カート・コバーンの全てがここにはある。しかし、常に全てをぶつけ続けたカートはその翌年、自分自身で全てを消し去った。
「次のアルバムは前のアルバムより売れることはないだろうね。きっと、すごく聴きにくいはずだから。」カートはMTVのインタヴューでこう発言した。前作『ネヴァー・マインド』は世界を巻き込むグランジ・ブームの発端となり、驚異的な成功から一躍有名になったニルヴァーナは、あらゆる謂れない中傷を受けなければいけない立場となった。シアトルの片田舎で鬱憤を晴らすためギグを繰り返した青年達は、想像もしたことのない煌びやかで汚らしい世界へ一瞬にして連れ去られていったのだ。いくらお金で満たされても、精神を荒廃させていく幻のような世界。流されて自分が変わってしまうことに恐怖を覚えたカートは、いつしか必死の抗戦を始めた。そして、それはニルヴァーナの音楽性をも大きく変えてしまうことになる。
プロデューサにはインディ界の鬼才スティーヴ・アルビニ(ピクシーズ、ジーザス・リザード等をプロデュース)が迎えられ、『アイ・ヘイト・マイセルフ・アイ・ウォント・トゥ・ダイ』(元々のアルバムタイトル、発売直前に変更された)はそのレコーディングをスタート。緻密なサウンドを目指すカートに対し、アルビニは荒々しさのみを強調した短期間のレコーディングを要求。抵抗を感じたが、それこそが今のニルヴァーナには必要なのだと判断し、カートは条件を飲んだ。
「パール・ジャムは頭がいいから良い曲をアルバムに数曲だけ入れて10年はバンドを持たせることができるだろうね。俺にはそんなことができないから、今できる良い曲を全部アルバムに入れてしまうのさ。」(カート:ロッキンオンのインタビューより)
だが、いくら粗悪で凶暴なサウンド・プロダクトに晒されても、ニルヴァーナの楽曲が粗野になることは決してなかった。1曲1曲入念に、シンプルさの中に永遠を感じさせるフレーズをいくつもいくつも重ねて創り上げられるニューアルバムの曲は、前作以上に素晴らしいものだったのだ。陰鬱で鬱屈で躁鬱で逼塞で閉塞された、救いのない言葉がその全てのムードを埋め尽くしたとしても。
デイヴ・グロールが最近出たベスト盤に関してのコメントを求められたとき、「カートは本当にいいヤツだった。最後まで音楽に真剣に向き合っていた。俺はあのバンドにいたことを今でも誇りに思っている。」と即答しているとおり、ニルヴァーナはあらゆる意味で真剣で、いいかげんなことをしなかった。他人に噛み付くことや、メディアへの揶揄でさえも、彼らの大人になれない青臭い叛骨の表れだった。そう『イン・ユーテロ』に示される世界こそ、多くの人間にこそ受け止められるべき、彼らの真正面に向き合った心情を述べた世界だったのだ。
太陽の光の中 俺は結婚し 埋葬される
俺もおまえみたいだったらいいのに
どんなことでもすぐにおもしろがる
何もかも俺の過ち
俺が全ての咎めを受けよう
”オール・アポロジーズ”(#12)
僕は思う、何が人の幸せなのだろうと。人の心を満たすものは一体何なのかと。カートが得ることの無かった充足を、カートが生きた年数より自分が歳を重ねていくことでたどり着けることができるなら、そのとき僕はカートに謝りながらも楽しく報告しようと思う。でも、それまではきっと、僕はこのアルバムで問われていることを考え続け、悩み、うなだれながら、今の世界を自身で消し去ることなく生きながらえるのだろう。
ハウリングとフィードバック・ノイズとリフに囲まれながら、僕はあのときから10年を重ねた。未だに、僕はカートに満足な報告はできていない。
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