丘の上の向日葵
山田太一の小説。
--望むは平凡で穏やかな人生である。それに偽りはない。と同時に、その退屈な生活から抜け出し、美しい人と甘くて清らかで淫らな日々に溺れてみたい。通勤電車の中で、毎日昇り降りする駅の階段の途中で、心の奥底に存在するそんな妄想に身を任せるのが習慣になっている。無論、複雑で面倒な手続きは一切なしに。
妻子ある40代の研究所員の穏やかで平凡な生活は、結婚前に一度だけ買った女性に「あなたの子供がいる」と告げられたことで、大きく変化し始める。何より彼女は美しかったのだ---。
人の心は、複雑で矛盾していてエゴイスティックでもろい。表面化した言葉や態度や感情が、どこから生まれたのかすら分からない。全く手におえない。私たちは誰もがやっかいで我儘な「心」に振り回されながら生きている。
でも、きっと、それでいいんだと、この小説を読み終えて思った。多分、そのようにしか生きられないのだと思う。移り変わる心の様相に翻弄されながら、私たちは自分なりのモラルを築き、他人との関係を築き、自分の生を築くしかないのではないか。
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