コーヒーヤ
珈琲屋
●●駅前の■■の裏通り、古く薄汚れた小さな雑居ビルの小さな入り口に「珈琲屋」と看板が掛かっている。
その狭く暗い階段を登り、これまた古びた重いドアを開けると、なにやら怪しげなアンティークの数々。まるで骨董品屋の風情だが、磨き上げれたウッドのカウンターの中には、パリっとした真っ白のシャツにキリリと赤い蝶ネクタイ(日によっては普通のネクタイ)の老紳士が睨んでいる。歳は60代後半くらいだろうか。もし、あなたが始めてここに足を踏み入れたならこう聞かれることだろう。
「ここは始めてですか?誰かの御紹介ですか?」
老紳士の名は渡辺五郎氏。この珈琲屋のマスターだ。丁寧で優しげでありながら、どこかドスの効いた強い印象。そこはかとなく胡散臭さも感じないではないが、非常に上品な振舞。この振舞は一般の日本人のものとは違う雰囲気がある。
「ここは喫茶店でも酒場でもありません。サロンです。ゆっくりと寛いでいってください」
さてしかし、いったい何を飲んだらよいものか?と壁のメニューを探すと・・・・聞いたこともないメニューばかり。値段表記も一切ナシ。これは珈琲通の方ほど戸惑うに違いない。
「では、私が選んで差し上げましょうか」
戸惑っていると、マスターはそう語りかけてくるだろう。珈琲の好み、文化的趣向、雰囲気などぽつりぽつりと語らううちに珈琲のメニューは決まる。が、決まるか決まらないかのうちにマスターは淡々と手早く珈琲を造り出すから、おそらく聞いたこともない名前の珈琲が出てくるまでに時間はそうはかからない。
「この珈琲はモレリアといって、薔薇の香りの甘い珈琲です。これは仏蘭西のさる貴族のお屋敷で飲まれているもので甘美な香りが特徴です」
熱く珈琲を語る老マスターは本当に楽しそうだ。だが、始めて口にする珈琲の甘く柔らかく豊饒な味わいに、ついうっかり「グイっ」と飲みそうになると、とたんにマスターの表情が強張る。
「そんな飲み方をしてはいけない。私ならその1杯で2時間は楽しめる!」
慌てて、無礼を詫びると途端に元の穏やかなマスターに戻り「間違いは正せば良いんだ。いくらでもやり直しは効く。人生には決して「遅すぎる」ということは無いんだよ。気付いたときに直すか直さないか、その違いしかない」と意味深なコトバ。実は、そうしてマスターは徐々に冗舌になっていくのだ。
「私は若いとき、銀座資生堂パーラーで働いていてね。ある縁がきっかけで英国にわたることになった。わたしのサーヴィスを気に入ってくれた貴族が屋敷で私を専属の給仕として雇ってくれたのさ。そうして英国貴族の世界へと足を踏み入れたわけだが、その珈琲の世界はとても深いものでね・・・・・・」
珈琲を巡る冒険譚は英国から仏蘭西、独逸、伊太利へと続くので、どうしてもこの続きが気になる方は御自身の目と耳と舌と心で御確認いただきたい。
「そうそう、日本にエスプレッソを持ち込んだのは、この私なんだよ。この写真がその時のマッキナ。気難しいやつでね」とか、いろいろ面白い話が聞けます。
ちなみに珈琲の価格は1杯2500円。
気に入らない客だと1杯5000円になり、あげく店から放り出されることもありうるとか。覚悟できるかたにのみオススメ。
*気付くと珈琲1杯で2時間近く楽しんでしまう為、時間にも余裕が必要です。
追記
マスターが御高齢のため閉店されてたようです。
http://portal.nifty.com/cs/mitekite/...
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コメント (9)
最新コメント5件
2003/06/21
涙腺子 emuさんにsが付いていました。お詫び方々訂正致します(CLASHさんの伝言に感謝しつつ)。
emm ありゃりゃ、やはり登録しないほうが良かったかなあ?実は1年以上、KW登録を迷っていたくらい、僕ももったいなく思っていまして・・・すいません>涙腺子さん。
CLASH とか言いながらageてるしぃ
emm 今さらながら申し訳程度に伏せ字にしてみました。って、sageれないじゃん。
emm このKWにはさらに深いネタがありまして「オリジナルコーヒーの世界」とか「渡辺五郎短編集」とか「聖高原の元・珈琲屋」とか、狂おしいばかりの世界が広がっているのでありますが、もったいないからKW登録は行わない予定。
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