禅とオートバイ修理技術
昔から気になっていた一冊だが、ついに手にとって読み始めたのはエリック・ホッファの自伝で言及されたからだった。
“クオリティ”の定義を求める修辞学的・哲学的探求から、精神に障害をきたした作者パーシグ。電気ショック療法で新たな自己を形成したものの、その結果、新たな父親に違和感をぬぐえない11才の息子クリスは“問題児”化。二人で自己発見の旅に出る....。
なんにせよ、初版1990年の本書がいまもって輝きを失っていないのは、ニューエイジとかの精神世界“ブーム”とは関係ない古典的な価値をもっているからでしょう。やや難解ですが、後半の古代ギリシャにおける「真」=客観性と「善」=クオリティ=アレテーとの“闘争”を読み解くあたりは圧巻。この辺りが西洋精神史の基層の重要な一部(ひいては我々の考え方の基層)を成すわけだから、若干自己省察的なスリルもある。理性が「定義」しようとする客観的価値(そんなものが厳密に存在すれば、だが)と、禅や道教に代表される前知覚的な“道”の相剋は、いまだにアクチュアルなテーマなのですね。
おそらく初版時に比べれば、単価は上がっていると思いますが、このような本の刊行を維持している版元には敬意を表したい。岡本一宣氏による洒脱なブックデザインも古びていない。むしろ底光りするような力を感じているのは私だけだろうか。
さて、ここからは飛躍しますが(苦笑)、巧妙な形で馴化され無力化された日本の国家意識と、ちょっと通じるかもなあ、とか。「息子」が問題児化してるのも似てるしのう(笑)。
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