ダニエル・リベスキンド展
以前に初台にあるICCで展示された「ダニエル・リベスキント展」(■1)について。
多角形的な鋭角を組み合わせた設計が特徴的なリベスキントは、ベルリン・ユダヤ博物館(■2)を設計したことで2002年にヒロシマ賞を受賞しました。自身もユダヤ人である彼は、ナチスの犠牲となったユダヤ人画家の個人美術館であるフェリックス・ヌスバウム美術館や、その他にも北帝国戦争博物館や収容所跡の都市計画など、歴史に抑圧された声なき声を、「テクノロジーと経験のひとつの均衡点」の建築として成立させることを得意とします。彼の建築の発想は、これまでのコンパスと分度器片手に机上で図面を引くやりかたでは出てこなかったような、より立体的で複雑なものです。「真に優れた建築はシステムを完全に破壊することができる」という、まさに最先端の建築というべき彼の発想は、ディスコントラクト建築の代名詞と称されてきました。しかし、その斬新さゆえに――幾重にも交差した巨大なコンクリート建造物を、まるで廃材置き場のように混沌とした小さな建造物がとり囲み、また別の管のような細長い建築が無秩序に貫くといった都市計画案など――その計画の多くのは実現されていません。
建築とは、ひとつの抽象的な表現の場でありながら、オーナーにとっては何らかの用途があり、私たちとってはそこは生活の場であったり、もしくは様々な体験の場であったりする、という非常に稀有なメディアであることがわかります。このことを、彼はあるインタビューの最後でこう表現しています。「建築とはテクノロジーと経験の均衡点です。まさに、そこは現実の錯乱地帯であるべきなのです」。この展覧会のパンフレットは「現在のテクノロジーは無意識の扉を開けることになった」というインタビューの一節で始まりますが、建築がもつ役割――彼の言葉では「建築と芸術の真の作用」――例えば上野にある国際こども図書館のような場所で絵本を読むときに感じる何か――をうまく言当てていると思います。
最後に企画について。彼自身のことについて知れたことを省けば、展示会としてはあまりにお粗末としかいいようがありません。4つの比率もわからない白い立体模型が、それぞれの彼のコンセプトに沿って壁や床にペイントされた部屋――例えばシェーンベルクの未完のオペラの楽譜――に置かれているだけです。休憩室にある彼の作品を扱った本やビデオを見なければ、その白く塗ることで強調したいフォルムとしての建築の意図する所は、まったく汲み取れないといってよいでしょう。
■1.ダニエル・リベスキンド展――存在の6つの段階のための4つのユートピア
2002年12月20日(金)~2003年2月23日(日) NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)
■2.ベルリン・ユダヤ博物館(1999)
ベルリン・ユダヤ博物館では、彼の建築に多く登場する天に向かって飛び出した幾つもの鋭角がまったくない。天井はある一定の高さにきっちりと揃えられていて、まさしく彼らが辿ってきた抑圧的な歴史のような重い圧迫感を感じられる。重厚なコンクリートの壁は食い込んだり迫り出したりしながら、その側面に取りつけられた大小異なった形の幾何学的な窓(もはや窓ではない)は、ある場所では厚い壁を斜めに傷つけ、またある場所では十字架のように交差する。その石の塊につけられた自由な切れ目から、そして逆に内部の回廊をほの暗く照らし出すその傷口の明かりから、これからも深く問題を孕みつづけるであろうユダヤの民の希望と絶望を思わせる。
- 2003/11/13更新
- 2003/11/13登録
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