U2 / WAR
この年末、イラクへの海外派兵を決めた日本は、また一歩、軍事国家への道を進んでいこうとしている。20年前に4人の男達が鳴らしていた警鐘を、受け取る人物は政治の世界にいなかったのだ。子供の唇についた傷は何を意味するのか?なんて気配りは絶対にしない、泣いている人さえ笑いの飯にする。よしんば聴いていたとしても、メロディアスなただの音として、垂れ流されるメディアとして受け取ったのだとしたら、きっと彼らの歌った深い情熱は行き場をなくした魂のように宙をさまようことだろう。つまりは、このアルバムで語られるU2を未だにリアルに感じるのは世の中が全く変わってないということを指す。
U2はボノ(vo)、エッジ(g)、アダム・クレイトン(b)、ラリー・ミューレン(dr)という結成以来変わらない鉄壁のチームで、現在もシーンに影響を与え続ける最強のグループである。76年にアイルランドはダブリンで結成し、80年『ボーイ』で華々しいデビュー。パンク/ニューウェイヴの息吹を十分に吸い込みつつ、スリリングで生音重視のエッジの利いたサウンドと政治的メッセージは、聴くものの心を揺さぶり起こした。とはいっても、この羨むべきサウンドは、彼らの一種の実験であり、退屈で享楽的なシーンに一矢を報いてやろうという思いでたどり着いた結果にすぎなかったということは、『焔(ほのお)』『ユシュア・トゥリー』『アクトン・ベイビー』というアルバムを通り過ぎた今となっては当たり前すぎる事実となってはいるのだが。
『WAR』のサウンドが1st・セカンドより重厚なのは、彼らのメッセージ性・サウンドにかけるアイデアの充実がもちろん核になっている。が、加えて言うならば、プロデューサーのスティーヴ・リリーホワイトが行ったベースとドラムを中心に組んだ音源作りが遂にマッチしたということも見逃せない。そのおかげでエッジの細やかで複雑、時にストレートに切れ込むギターが心地よく響き(後に伝説にまでなったディレイ・エフェクトギター)、ボノの歌声が深い優しさにくるまれて表現されていく。劇的なまでに鮮烈でストイックな世界がここにはある。
"RED LIGHT"(#08)の女性コーラス、ボノのファルセットヴォイス、幾度も叫ばれるLOVEの歌詞。心の中にそのLOVEが刻むことができるかどうか、『WAR』の肝心要のメッセージは「そこ」にある。"New Year's Day"(#03)"SUNDAY BLOODY SUNDAY"(#01)といった歌を共に叫び、日常に転がっている情けないまでの卑猥な出来事にこそ戦争を仕掛けよう。「暴力なんかよりいい方法があるんだという気持ち」(ボノ)、歌に込められた魂を聞き手の頭の中に浸透させ、お互いが手をつなげるほどの信頼を。これが果たして夢想家のたわごとかどうか?もう10年経ったときにでも、このレコードを鳴らして実験してみればいい。「U2は4人の人間がいて4人でやっている。4本足のテーブルさ」(ボノ)。彼らは説法をといているわけでもなんでもない、ただの人間なんだから。
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