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金沢の旨いもの (カナザワノウマイモノ)

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 もう何度読み返したかわからない吉田健一の「金沢 酒宴」。和風トリストラム・シャンディと言ったら失礼かもしれないが、モチーフらしいモチーフも無く続く文章に気持ちよく乗せられて、読むだけで軽い酩酊状態を楽しめるのはオレだけだろうか(苦笑)。なに、この奇怪な小説のモチーフは金沢そのものであることに気づけば、本は何度空にしても酒が湧いてくる壺のようなもの、になる。
 そして、冬も本番になると帰巣本能のように金沢に帰りたくなる。文庫版のこれを持って。困ったものだ(笑)。米原で北陸本線に乗り込む。社内販売の鱒の寿司なんかをつまみながら、ジャック・ダニエルのオンザロックをちびちびやりつつ、ゆっくり「金沢」を、また読む。たまには雪景色に目をやって、積雪と零下の気温のせいで清冽になった空気の匂いを嗅いで心躍らせる。
 金沢駅に着く頃には、もう出来上がっているわけだが(苦笑)、ホテルでちょっと休んだ後は、もう、そぞろ歩きが食の饗宴になるのだ。
 
 まずは、

【金沢のおでん】バイ貝が入っている。もちろん、松葉蟹の雌である香箱蟹(なんというネーミング・センス!)も金沢おでんの具として有名なわけだが、薄目の出汁で煮たバイ貝を楊子でほじくり返しながら頂く熱燗。これが私流の金沢の口開けである。良く行ってたおでん屋は香林坊裏手の「高砂」。店の中が適度に明るいのも好きです。

【タラの昆布締め】おお、新鮮な魚を昆布で締めると、こうも深い味わいになるのか、と膝を打ったのは、あれはもう15年ほども前か。昔、香林坊の奥の方にあった大きくなる前の「浜長」のカウンターでのことだった。ほんのり昆布の色がうつったタラの白身には丁寧に鱈子がまぶしてあって、天狗舞に、実に良くあった。昆布は、出汁の良く出る厚めのものは適さない。近江町市場で昆布締め用で売ってる薄いので締めるのだ。で、高砂から、みぞれ模様の夜の街を「寒い寒い」と歩いて来た我々に次に供されるのは、

【蓮蒸し】である。原型は京料理の蕪蒸しと思われるこの料理。加賀の力強い蓮根をおろして蒸すだけ。まさに京料理と金沢の風土の合作である。蓮につなぎは不要。強い土で育まれた蓮根のみで出来る料理だ。首都近郊の蓮根でやっても無理なのです。もちろん具には銀杏、ノドグロの小さな切り身。出汁で溶いた熱々の吉野葛がかかっている。ほら、ふうふういいながら木しゃもじでほうばるうちに、冷酒がすすんで汗まで出始めた。気がつけば、浜長の小上がりの向こうに見える坪庭に、雪が森々と積もり始めた。

【かぶら寿し】先付けで忘れてはならないのは、かぶら寿し。寒鰤を挟んで麹につけ込んだかぶら寿しには、店の個性が染み出てくる。必ずしも全部が好みという訳ではなかったし、暖かい冬には出来も今ひとつになる。でも、降り続く雪の消音効果の中、犀川の川音だけを聞きながら、こいつを摘んで頂くぬる燗は金沢ならではの味わいだった。

【河豚の卵巣、このわた】金沢を2本の川が流れているが、浅野川たもとの清風荘での昼食は忘れられない。部屋から眺められる河面に小雪が舞い散るお昼時、まずはぬる燗。そのあてに出たのが河豚の子との遭遇だった。河豚の卵巣は、もちろん下手に食えばあたってしまうわけだが、これを2年以上塩漬けにすると、あらら不思議、風味豊かな酒のあて(にして御飯の友)に変身してしまう。もちろん相当しょっぱい。が、その塩味の奥に河豚の複雑な味わいと香りがじんわりと広がるのだ。薄くスライスしてちびちびと頂く。ああ陶然。
 ちなみに河豚の卵巣は、河豚の粕漬けや味噌漬け(こちらは身の方)といっしょに近江町市場で普通に売っている(と思います。何しろとりあえず10年前の話なもんで)。塩漬けの後、いしるで漬けたり醤油で洗ったり、は作る所によって色々らしい。しょっぱい系の酒のアテとしては、もちろん定番のこのわたもいけます。

【寒鰤、がんど】がんどとは鰤の若いのを言うらしい。脂ののった寒鰤といっしょに刺身で食べ比べると、こちらの方が味が引き締まっているような気がする。いずれにせよ旨いに変わりはない。お好みでどうぞ。もちろん、こいつのアラと金沢の力の強い大地で育った大根とでことこと煮込んだブリ大根がんまい!のは当然である。

【ノドグロ】冬の金沢に行ったらノドグロを食わねばならない。脂の乗ったのどぐろの塩焼きを初めて頂いたのは、あれは大工町「よしむら」だったろうか。
 浜長が大きく(味気なく)なって我々の視界から消えてしまった後、「地元の人にひいきが多い居酒屋」とのタクシーの運転手の話でおっかなびっくり初めて行ったのは10数年前だ。居酒屋?どうしてどうして割烹だよ。店の格なんかどうでもいい。なにしろ出される物が皆旨い。小上がりでは「フードピア」の企画担当関連の皆さんあたりが、店に「観光客」が来ないのを前提に、率直な話をされていたりして(苦笑)微笑ましい。
 毎年、通い詰めて「東京から年に1度魚を食べにくる酔狂な客」として顔と名前を覚えられてしまった。その後、ここ数年の間に、Dan○yuとか週刊文○とかに紹介されて、すっかりメジャーな名前に。でも、よしむらのおやじさんの事だから、そんなこと何とも思わず当たり前の顔して旨いものこさえてんだろうな(笑)。
 ああ、ノドグロの話だ(笑)。オレは塩焼きが好きなのだが、地元では煮付けが最高、ということらしい、特にメスの腹から卵を注意深く取り出して、一緒に煮付けたのが最高だと。お試しあれ。ノドグロの写真は例えばこの辺を→http://www2.ocn.ne.jp/...

【クニャラ】その大工町よしむらで、ある晩おやじさんに「品書きにゃあ出さないんだけど、食べてみる?」と聞かれて出されたのがクニャラ。なんちゅう名前じゃと思ったが、これは行くしかないでしょう。出てきたのは厚いゼラチンの皮をまとった、どじょうを大きくしたような8センチばかりの面妖な小魚。これを、あえて出汁を取らない醤油の熱いスープで軽く煮た椀ものだった。これがワイルドな味わい。10年以上経過しても覚えている。泥臭いと感じる寸前で止めたゼラチンから発する出汁の風味に、反比例するような上品で淡泊な白身の肉の味。聞けば蟹の網にかかってくる深海魚で、傷むのが速いため築地には出ない、漁師料理になってるんだとか。http://www.maruya-suisan.com/zukan/...

【おしまい】これ以外にも万十貝とか金沢が発祥と思われる「吟醸酒ケーキ」とか柚子ゆべしとか、まだまだ続けようと思いましたが、老眼に小さい字がきつくなってきたので(笑)、この辺でとりあえず。

【雀】別項で「吉田健一の金澤」を書いていて思い出した。ある晩、とある割烹のカウンターで飲むうち、短冊に「雀」と書いて貼ってあるのを見つけた。え?金沢では雀を食べるのか、と一瞬骨だらけの小鳥の焼き鳥の姿を思い浮かべたものだ。板さんに聞くと「ああ、これは便法で雀と書いてるけど、違うんです。小鳥ですよ」と口を濁す。よくよく尋ねたら(小さい声で)「ツグミ。禁鳥だから書けない」とのこと。野趣と滋味あふれる、その「雀」を食したことは言うまでもない。この時ばかりは赤ワインがグラスに一杯欲しかった(笑)。
 時効だろうし、それにその店はもう無いから、店が野暮な人々に突っ込まれることも無いだろう。ツグミは漢字で鶫。昔は大友楼の駅弁にまで入っていたという(吉田健一の金澤参照)。

Fallout画像 投稿者:
Fallout
詳細情報
  • 地域: 金沢
  • 2004/05/22更新
  • 2004/01/12登録
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コメント (13)

最新コメント5件

2004/05/23

Poughkeepsie 4月出張の際に食べた「しめ鯖」…これ以上のは、まだ出会ってません。(近江市場近くスカイホテル横http://gourmet.yahoo.co.jp/gourmet/...

Fallout ああスカイホテル、まだあるんだ。冬場に行くと陰鬱なランドマークです(笑)。出張行きてーっ。

2006/03/02

スイーツ姫 石川出身者としてとても懐かしい気持ちで読ませていただきました。「浜長」の創業は私の両親が結婚した年。創業当初から通っていた父は、嬉しそうにその話をよく私に言って聞かせてくれたものです。

Fallout 創業の頃からですか、スイーツ姫さんのお父さんは、良いお店に恵まれて幸せですね(笑)。無くなってから無性に寂しくなるものです。記憶を共有する者と、「ほら、あの時霙が降っててさ」などと、時空どころか香りまで思い出すんですよね。

2006/03/03

スイーツ姫 味覚や嗅覚、聴覚などの感覚って、瞬時にして当時へ引き戻しますよね。もしかしたら父も新婚当初のことを思い出すべく、浜長さんの話をするのかもしれません・笑

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トラックバック (3)

寒かったので

  • Falloutの日記 | Tracked: 06.4.3 5:23 pm

 当然、蓮蒸しも頂くのであった。う、旨い。合掌。

二代目のお造り

  • Falloutの日記 | Tracked: 06.4.3 5:17 pm

 手前中央が万十貝。春先なので冬場より味わいが濃厚。となりはガス蝦。

金沢・大工町「よし村」へ

  • Falloutの日記 | Tracked: 06.4.3 5:02 pm

 12年ぶりの金沢。「よし村」は代替わりしていた。以前に書いたオヤジさんは、4~5年前に急病で亡くな…

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