シドバレット・マッドキャップラフ
Syd Barrett/The Madcap Laughs
「あれからシドは母ちゃんと一緒にテレビを見て暮らしている」
嘘かホントか知らないが、学生時代にこの話を友人から聞かされて以来、私がシドを思う時、決まってその映像が浮かんでくる。
何だかあったかで穏やかそうだ。詰まるところ、音楽なんかで自分を突き詰めてもろくなことがないってことなんだろうな。
数年前にシドの母親が亡くなり、シド自身も糖尿病で精神的にも肉体的にもかなりヤバい状態であるとも云われている。
音楽界から姿を消してもう30年近く経つ人物であるのに、このいても立ってもいられない気持ちは何なんだろう。別に新しい音源など期待してはいないのだけれど、あなたにはそこにいてほしい。
それがファンの戯言だってこともわかっている。ロジャーが何かのインタビューでフロイドの歴史を振り返った際に
「ロックの歴史においてヤツは必要なのかもしれないが我々には他人が云うほどの重要性はなかった」
というようなことを云っていた。もちろんシドがフロイドの創設者でありバンドの全ての曲を書いていたということを前提にであるが、ある時期からシドはフロイドにとってとてつもないお荷物になってしまったんだろう。だからクビにした。そしてバンドは何十年も生きながらえた。・・・それが正しかったかはさておき。
我々は音楽や文学や絵画に常人には見えない世界を求め、感動を得る。シドが狂気のフロイドであるならロジャーは理性のフロイド・・・自分に見えない世界を見ることのできる人物がメンバーにいたということはロジャーにとって嫉妬の対象であり脅威であったことだろう。たったの2枚しかないソロアルバムを聴く限りではあるが、シドの音楽に向かう姿勢はとても自然体とでも云おうか、簡単にスーッと唄が出てきた、そんな感じを受ける。
一方ロジャーがフロイドで作り上げた音楽は試行錯誤を経て内面から絞り出した、もしくはひとつひとつ構築して行ったという印象がある。クビにはしたもののロジャーにとってフロイドの歴史とは、ほとんど勝ち目のないシドとの戦いであったはずだ。だからこそ彼はもがき苦しんで、その結果優れた作品を残すことが出来たと云って良いかもしれない。
今だ現存するバンドである。その歴史をきちんと総括されることはまだ少ないし、それでも最近では、1stのフロイドは別物であると語る向きもあったりする。かつて出たフロイドBOXではシド在籍時の1stだけが省かれていた
こともあったし。
ロジャーはついに戦いに勝ったのだろうか。そしてフロイドの看板を捨てた彼は楽になったのだろうか。
「The Madcap Laughs」は70年に発表されたシドの1stアルバムである。
お薬による精神破綻の末、バンドを追い出されたのが'68年3月。その2ヶ月後には既にこのアルバムに向けてデモ製作を開始していたそうだ。フロイド脱退直後やこのアルバムの発表当時のシドの発言を読む限り、失望や混乱など微塵も感じられず、新しい音楽活動への希望や自信など前向きな発言ばかりであることに驚く。失望や混乱などしている暇などないほどシドの心は音楽へと向かっていたのだと思う。それともただ単におかしくなっていただけなのかもしれないが・・・。
その10ヶ月後には2nd「Barrett」を発表、'72年にはバンドを結成し数回のライブをこなしている。
だがしかし、そこでシドの音楽活動は途絶えてしまう。
確かにシドのドラッグ依存は重大で、それ故の結果であることは間違いない。だが一方でシドをそこに居させまいとする働きがあったのではないか疑う自分もいる。
音楽とは極個人的なところから発せられるものである。たがそれを完成形として提示するためには複数の他者を介し共に作り上げていくという課程を経ることが多い。それが良い化学反応をもたらすこともあれば、人間関係の摩擦を引き起こすこともある。
狂気のバンマスにメンバーが「いち抜けた。に抜けた」・・・そしてシドが残った。そんな想像をするのは私だけだろうか。
このアルバムを発表した当時シドは音楽業界について聞かれこう答えている。
「ここは美しいところだよ。僕はもうどこへも行きたいとは思わないね」
フロイド時代の「ペインテッド・サウンド」と評された空間を音で塗るとはうって変わり、ここでの音世界は極めてシンプルなものであり、シドのギターと唄に簡単なバンドサウンドが絡むといった趣。
その音像はムンクの作品のように不安に美しく歪んでいる。ボーっとしていると心の中に入り込んでどこかへ持って行かれてしまう。
「Syd Barrett/The Madcap Laughs」を検索
このキーワードを共有する
-
メイン
つながりキーワード (11)
ミック・ロック
- (afloweristhelovesometing)
シド・バレット『帽子が笑う・・・不気味に』Syd Barrett /The Madcap Laughs (1970) イギー&ザ・ストゥージーズ『ロウ・パワー』Iggy ...
シド・バレット
- (サボタン)
ピンク・フロイド(イギリスのロック・バンド)の元リーダー。 ピンク・フロイドの1stアルバムで作詞、作曲、ギター、ボーカルを担当したが、ドラッグのために精神を病み、バンドを去った。その後、...
Syd Barrett
- (Atmosphere)
デビュー当時のピンク・フロイドのリーダー。バンド自体のアルバムは2枚目まで参加して脱退、ソロに転向。その後ロックシーンから姿を消し、伝説の人物となる。色々な人が行方を追っ...
夜明けの口笛吹き
- (maimai)
原題は「THE PIPER AT THE GETES OF DAWN」。 ピンク・フロイドの1st、というかシド・バレットのデビュー作というか。というのもほとんどの曲が...
ピンクフロイド/狂気
- (raspy)
今まで逃げていた(いや、ザッパは聞いてたけど)プログレ路線に一歩、という事でピンクフロイドの「狂気」を購入。 これを聞きながら眠ったら、なぜかいい夢を見た。テクノ聞きな...
syd barrett
- (tracter)
最も尊敬するミュージシャン。
67年作品でピンク・フロイドの記念すべきデビューアルバム。後にプログレッシヴ・ロックの重鎮バンドとなる彼らだが、デビュー時は完全にサイケデリック・ムーブメントの中心的な存...
THE WALL
- (TEST4ECHO)
PINKFLOYDとしてDARK SIDE OF THE MOONに続いて爆発的なヒットを飾った2枚組アルバム。(なんと全世界で4500万枚売上、2枚組みアルバムとしては...
『Wish you were here』
- (おが)
高校時代の下校の音楽が、このアルバムの一曲目のShine on you crazy diamond part1。5時になると、高校中に響き渡るその曲は、夕焼けに映えるガス...
原子心母
- (TEST4ECHO)
ご存知PINK FLOYDのアルバム。原題はATOM HEART MOTHER。何でも人工心臓(きっと支援目的で移植用ではない)を付けた女性が子供を無事出産したという記事...
ヒプノシス
- (TEST4ECHO)
いろんなミュージシャンのレコードジャケットを手掛けたデザイン工房。PINK FLOYDの一連の作品が有名。60~80年くらいまでのミュージック・シーンには欠かせない数々の...






夜明けの口笛吹き
ピンクフロイド/狂気
『Wish you ...
ミック・ロック


