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よもつひらさかおうかん

よもつひらさか往還

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 倉橋由美子の作品は「スミヤキストQの冒険」以来、一種の前衛を気取る高校生のイメージ(といっても、もちろんそれは私個人の生育環境に負ったものであって作家自身のせいであるはずもない(あたり前だ))が邪魔して、私にとってはとりつく島の無いものだった。ちなみに当時の文学青年諸君も、今会えば頭髪が寂しくなった立派なふつうのおじさんに成り果てているのは慶賀の至り(苦笑)。
 その呪縛が解けたのは本屋で偶然に手が伸びた「幻想絵画館」(文藝春秋刊)だった。80年代末期のバブル狂奔の中(といっても原資を持っていなかった私には何の関係も無かったが)で手にしたその本は、キリコの「神秘的な動物」から石濤の「黄山図巻」を経て、クレーの「灰色のものと海岸」に至る20枚の絵画と共振する20の物語群で構成される。妖しくも力ある物語に、まさに紙数が尽きるのを惜しむ気持ちで耽溺した。

 「よもつひらさか往還」は、私にとってはその14年ぶりの続編である。主人公の慧(けい)君は「幻想絵画館」と同じ。「小さい時から膨大な知識を渉猟した結果、宇宙の誕生から人間と神の絶滅するまでを包括する意識の宇宙をつくり、瞑想によってそれを構造化し、あらゆる問いに対して最少の言葉で答えたり、その場で言葉の即興演奏をして応えたりする術を身につけて」しまった。ひょっとしたらBlogでもやっているのか。結果的に「ネットワークの世界であまねく光を送る太陽のような存在」になっている。
 前作では「(趣味で始めた)パソコン通信の掲示板」を経由して交流した(いずれもとても魅力的な)魑魅魍魎は、よもつひらさかでは、ブロードバンドになったせいでも無いだろうが(笑)、より一層迫力を増した。チロチロと紅の舌を操ってしゃべる髑髏やら、関節を外しながらの大立ち回りでまぐわう鬼といった具合。慧君が怪事と出合うきっかけになるのは、いつも「クラブ」のバーテンダーにして執事のような「九鬼さん」の作る一杯のカクテルである。目の前でシェイクすることなく、別室で秘薬とともに調合される多彩で妖しいカクテル(コクテイルと書きたくなる).....。読みながら酔いが回り、文字を読んでいるだけなのに微妙な官能に浸るのは、作家の術中に見事にはまりおおせたせいか。

 群仙 出没す
 空明の中
 浮世を蕩揺して
 万象を生ず

 読んでいて、何事かを思い出す。そう、この酩酊する感覚は吉田健一の、あの作品に、間違いなくどこかで繋がっているのだ。ああ、九鬼さんの顔が、あるいは入江のおじいさんだろうか、何しろ顔が見えてきた(微笑)。

よもつひらさか往還

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Fallout画像 投稿者:
Fallout
詳細情報
  • 年(代): 2002年、講談社刊。
  • 2004/09/08更新
  • 2004/08/28登録
  • 2158クリック

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コメント (3)

2004/08/31

Fallout 幻想絵画館の「黄山図巻」は機会があれば実物を拝見したいと常々思っていたのですが、なんと住友コレクション「泉屋博古館」の京都の方にあるのですね。

2004/09/01

Fallout 上記は2004年秋期(10月まで)の企画展だそうです。常時展示されているかどうか不明ですが、とりあえずリンクを張っておきます。http://www.sen-oku.or.jp/kyoto/...

2005/06/14

Fallout 2005年6月10日に逝去されました。69歳でした。合掌。

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小説家。『パルタイ』でデビュー。 『聖少女』のラスト20ページぐらいは何度読んでも金縛り。

1960年『パルタイ』でデビューした女流作家。 とても好きな作家の一人なのに 本屋では残酷童話しか置いていないことが殆どで その他の作品を探そうにも 絶版になってしまった...

 もう何度読み返したかわからない吉田健一の「金沢 酒宴」。和風トリストラム・シャンディと言ったら失礼かもしれないが、モチーフらしいモチーフも無く続く文章に気持ちよく乗せら...

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