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アメリカ外交 苦悩と希望

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アメリカ外交 苦悩と希望 村田晃嗣著 講談社現代新書 2005年02月20日第1刷発行
 産経の書評で紹介されてる(http://www.sankei.co.jp/news/050313/...)のを見て興味を持って読んでみました。本書では、まずアメリカを「帝国」や「一極支配」と単純に見ることを否定して(ただし一極構造ではあるが)、三つのレベルを意識する必要を説きます。

 第一は「一極構造」といった国際システムのレベルの問題、第二は、アメリカ国内の政治や社会のレベルの問題、第三は、大統領をはじめとする政権首脳など個人のレベルの問題である。こうした区分は国際政治ではかねてから馴染み深いという事です。p14

[ 国際システム――構造とシステム ]
 第一の国際システムとは、アメリカを代表する国際政治学者ジョセフ・ナイの優れた教科書『国際紛争』によるとシステムは構造とプロセスからなる。構造とは国際政治におけるパワーの分布状態であり、現在の様にアメリカ一国が突出していれば一極構造という事になる。またプロセスは、同じ構造でも主要な大国が現状維持を願って穏健に振舞うか、現状打破をもとめて過激に行動するかで異なってくる。p14 15

 現在の国際システムはアメリカを中心とした一極構造である。プロセスについては9.11テロ以降国際テロリズムとの戦いや大量破壊兵器の拡散防止をめぐってアメリカがより過激で現状打破的に成ったと見ることができる。

 ネオコンの代表的論客ロバート・ケーガンの有名な一説。

 ナイフしか持っていないものは、森林をうろつく熊を、許容できる危険だと考えるだろう。この危険を許容しないのであれば、ナイフだけを武器に熊と戦うしかないが、この方法の方が、その場に伏せて熊が襲ってこないように願っているより危険が大きいのだから。しかし同じ人が銃を持っていれば、許容できる危険についての見方がおそらく変わるだろう。戦うことだってできるのに、かみ殺される危険をおかす必要があるだろうか。まったく正常なこの心理がアメリカとヨーロッパの溝を生み出している。

 「まったく正常」か否かは別にして、このやや粗雑な比喩は、銃(大きなパワー)を有したものが熊(脅威)に直面したときの、原初的な心理(プロセスの変化)の一端を示していよう。p16-17

 ではパワーとは何かもちろん単なる軍事力だけではない。これは国家の有する軍事力(力)と経済力(富)と情報や文化、規範(価値)の複合体である。こうした見方も何ら目新しいものではなく、国際政治学者の高坂正堯、古典としてはE・H・カーの『危機の二十年』がある。ナイも同様の指摘を行っている。

 21世紀には国力はハードパワーとソフトパワーの組み合わせになる。軍事力、経済力、ソフトパワーという3つの側面すべてにわたって、アメリカほど資源に恵まれている国はない。このような世界で最悪の誤りは、一面的な分析を行い、軍事力だけを増強していけばアメリカの力を維持できると信じることである『アメリカへの警告――21世紀の国際政治のパワー・ゲーム』(ジョセフ・S・ナイ(山岡洋一訳)日本経済新聞社2002年p38)p18 19

 まず軍事力(力)である。ここでのアメリカの優越は最も顕著である。9.11テロという露骨な挑戦を受け国防予算は大幅に増額された。2003会計年度のそれは、総額3800億ドルに達し、前年度比で480億ドル増額、伸び率は15%で過去20年間の最高となった。(20年前といえば、レーガン大統領がソ連を「悪の帝国」と読んだ頃である)この増額分だけでもフランスの国防予算の1.5倍に匹敵した。今やイラク関連のものを除いても、アメリカの国防予算は4300億ドルにもなりなんと一国だけで世界全体の軍事費の40~50%を占めその額は2位から11位までの国々の合計を優に上回るのである。p19 20

 対イラク開戦に先立ってラムズフェルド国防長官は、イギリスが躊躇するなら、アメリカ単独でも軍事行動をとる準備がある、と発言して物議をかもした。純粋に軍事的にはまったく正しい発言であった。アメリカの軍事的優位が進むにつれて、特に攻撃的な軍事作戦遂行上の同盟国の軍事的な価値は(戦後処理や政治的なそれは別として)低下しつつある。p20 21

 問題はアメリカの軍事力は、アメリカに敵対する諸国を恫喝し破壊するには十分でも、対イラク開戦時の仏独の強い反対に見られるようにアメリカの同盟諸国や友好諸国を従順されるには、必ずしも効果的ではない。同盟・友好諸国は、アメリカがその軍事力を自らに向けることはない、と知っているからである。「属国」や「属州」が「帝国」の政策にこれほど反抗的だったことがあるであろうか、あるいは「帝国」が「属国」や「属州」の反逆にこれほど寛大だったことがあるであろうか。p21 22(…日本はどうなんでしょうね…)

 次に経済力である。ここでもアメリカは相当の優位を享受している。世界全体の国内総生産に(GDP)に占めるアメリカのそれは32.3%(2002年)であり、2位の日本(12.3%)、3位のドイツ(6.1%)、4位のイギリス(4.8%)5位のフランス(4.4%)、6位の中国(3.8%)の総計をなお上回る。世界の貿易高に占めるアメリカのそれも、輸出で12.3%、輸入で18.9%といずれも2位のドイツ(8.7%と7.5%)を引き離して1位である。また世界の特許件数で見ても、アメリカは129万5000件で全体の27%をしめている。さらに世界の売上上位企業500社のうち192社、株式の時価総額上位1000社のうち488社がアメリカ企業である。p22

 もとよりアメリカ経済が直面する問題も少なくはない。アメリカは4000億ドルを超える巨額の財政赤字を抱えているし、国内の貧富の格差も拡大している。ITバブルに踊ったアメリカ企業の不正会計事件も頻発している。対外的にも統合と拡大を進めるEUの挑戦は無視できない。だが、旧共産圏にまで拡大したEUの将来がこのまま順調かどうかは議論があろうし、高齢化の進む西ヨーロッパ社会では社会福祉の負担が深刻化しよう。まして、アメリカの対中貿易赤字の増大が政治問題化しつつあるとはいえ、中国が経済的にアメリカに挑戦できるようになるのは、かなり先の話であろう。内外の挑戦からアメリカ経済が今の相対的優位を失う可能性はある。しかし、アメリカ経済が世界経済の中心であることに。予見しうる将来大きな変化はないであろう。p23 24

 先に引用したように、「21世紀には、国力はハード・パワーとソフト・パワーの組み合わせになる」とナイは述べている。簡単に言えば、ハードパワーとは他者に強制する力であり、ソフト・パワーとは他者から自発的な同意や協力を引き出す力である。すでに論じてきた軍事力(力)や経済力(富)はハード・パワーの物質的源泉であり、これから触れる情報や文化。規範(価値)はソフト・パワーと関連が深い。国際社会の多様化と相互依存の深化につれて、ソフト・パワーの役割は増大している。
 ただし、軍事力や経済力なしではソフト・パワーにも限界があろうし、ソフト・パワーが軍事力や経済力に貢献する側面もあろう例えば、バチカンは軍事力や経済力なしに大きなソフトパワーを有しているが、第二次世界大戦のような極限状態では、ナチス・ドイツに迎合せざるを得なかった。また、共産主義イデオロギーがまじめに広範に信じられなくなると、ソ連の軍事力と経済力による東欧支配は、はるかにコストの高いものになった(ナイのソフト・パワー論についての批判的な紹介としては、青木保『多文化世界』(岩波新書2003年)の第二章の1を参照。またナイの最新のソフト・パワー論としてはジョセフ・S・ナイ(山岡洋一訳)『ソフトパワー――21世紀国際政治を制する見えざる力(日本経済新聞社2004年)がある)p24

 ソフト・パワーでもアメリカはかなりの優越を保持していると言えよう。今日の情報化時代をアメリカが牽引していることは多言を要しない。世界中に流通しているインターネット情報の85%は英語によるものだという。また、サブカルチャーの領域でも、例えば、世界の映画市場に占めるハリウッド映画の割合はやはり85%に上るとされる。2002年のハリウッド映画の売上高は510億ドル。延べ観客数26億人と推定される。さらにアメリカの食文化を象徴するマクドナルドは、世界100カ国以上に3万店以上の店舗を持ち、各国でのビッグマックの価格は購買力平価の指標になっている(「ビッグマック指数」)。規範についても、アメリカが唱導する自由や民主主義を、少なくとも表立って否定することは、容易ではない(しばしば「アメリカ型の民主主義の押し付けはけしからん」という批判がなされるが、アメリカ型でない民主主義の代案が具体的に提示されることは、あまりない)
 しかし価値の局面でのこうした優越をソフト・パワーに直結させることに、アメリカは必ずしも成功していない。たとえ、強者に対する妬みに起因しているところがあるにせよ、世界に渦巻く反米感情を見れば、そのことは明らかである。なぜか。アメリカの国内社会の現実(例えば、人種差別)や国際社会での行動が、時としてアメリカの唱える規範と大きく乖離しているからである。p25

 四点。第一にどのみち規範はある程度現実から乖離するものである(だから規範である)。第二に今のアメリカほどハード・パワーが極端に強まれば、ソフト・パワーの蓄積や行使についての意欲は低下するものであろう。だが、ハード・パワーの行使のみでは摩擦を増して効果が逓減すると悟れば、再びソフト・パワーの効用に関心が向かう。こうしていったん国力のバランスを回復すると、ハード・パワーの行使の方が容易であるゆえに、再びやすきに傾いて、よりハード・パワーに依存する。アメリカは今しばらく、こうした振幅を(その幅を狭めながらも)重ねるのではなかろうか。第三にソフト・パワーの有効活用に失敗している点は、実は、アメリカ同様に(あるいは、それ以上に)日本外交の反省点である。そして第四に、アメリカがソフト・パワーを回復する必要性については、しばしば語られるが、同時に、日本を含む国際社会もアメリカを国際協調に誘うソフト・パワーを蓄積しなければならない。アメリカほどの大国をハード・パワーや反発・批判だけで国際協調に導くことは困難であり、アメリカ自身が国際協調に利益を見出せるように誘導しなければならない。
 いずれにおいても、世界人口の5%弱にすぎないアメリカが、優越した地位を占めている。p25 26

[ 国内政治と個人の役割 ]
 国際政治と国内政治の連動についてもしばしば指摘される「国際」(インターナショナル)と「国内」(ドメスティック)を合成した「インターメスティック」という言葉があるほどである。確かに、アメリカ外交の単独主義や独善性はかなり伝統的なものであり、民主主義的な理念やキリスト教といった国内での信念の投影という色彩が強い。またアメリカが軍事力に過度に依存する傾向も「男らしさ」を強調する文化や未来志向の「フロンティア・スピリット」(開拓者精神)などの国内的規範と無縁ではない。p28

 最近のアメリカ国内政治の動向を概観。
 まず過去20年ほどにわたって、アメリカ社会の保守化と、組織力を持った宗教右派の台頭が目立つ。共和党最大の利益団体とさえ呼ばれる宗教右派の「クリスチャン・コアリション」が結成されたのは、1989年のことであった。
 聖書は神の言葉であり、すべて文字通り信じる(したがって、進化論を信じない「聖書無謬(むびゅう)説」にたつ)という人も、全体の実に三割に達する。2000年の大統領選挙に投票した有権者の14%が、自らを「宗教右派」と答えているともいう。04年の大統領選でも宗教右派の役割が大きかったされる。こうした勢力の影響力の増大は、アメリカ外交を異質なものに対してより不寛容にしている(仏独にはそれぞれ、500万人ものイスラム教徒がいる。イラク開戦に反対した両国の外交姿勢も、このことを抜きには理解できない)。p29

 次に個人の役割。アメリカ大統領の権限は絶大である。ブッシュ外交はクリントン政権の強い否定に立脚してきた。だがレトリックの皮を剥ぎ取ると、大量破壊兵器の拡散防止もんだいや国際テロリズム対策で、両者の継続性を看取することは、さして困難ではない。しかも単独主義を批判されるブッシュ政権が、通商政策ではクリントン政権よりも国際協調的だとの研究もある。また先に引用した「ネオコン」の旗手ケーガンですら、友好国や同盟国、とくにヨーロッパの同盟国から物質的、道義的な支援を受ける方が、ヨーロッパが懸念し敵意を持つ中で単独行動をとるより、はるかに好ましいいことに疑問の余地はない」と述べている。p31 32

アメリカ外交を分析する際、国際システムだけに注目すれば必然論に、アメリカの「国柄」だけにとらわれればステレオタイプのアメリカ性悪説に、そして個人や特定集団の役割を過度に強調すれば、陰謀論に陥りやすい。p 33

[ 四つの歴史潮流 ]
 どの国の外交にも固有の歴史的な背景がある。そこでアメリカ外交の歴史的潮流についても整理しておこう。アメリカ外交問題評議会の上級研究員ウォルター・ミードがアメリカ外交の伝統を四つの歴史潮流に分類して説明している。(1)ハミルトニアン(2)ジェファソニアン(3)ウィルソニアン(4)ジャクソニアンである。いずれもアメリカ史上の有力政治家の名に因んでいる。p35-37

 (1)ハミルトニアン ワシントン大統領の下で、初代財務長官を務めたアレキサンダー・ハミルトンに由来している。この流れは、北東部の利害を代弁して、国際通商の中で発展するアメリカを想定し、そのために、連邦政府と民間企業の協調とアメリカの対外関与を重視する。端的に言えば、海洋国家思考である。建国当時のアメリカにとって、当然、そのモデルはイギリスに求められた。ハミルトンがイギリスびいきだったことも良く知られる。

 (2)ジェファソニアン 国内の安定と発展を第一義的に考え、大陸国家をイメージしている。その名称もハミルトンの政敵であったトマス・ジェファソン(第三代大統領)にちなんだものである。大陸国家としてのモデルはフランスであった。ジェファソンは駐仏公使も務めた親仏派である。彼はまた、独立自営農民こそが民主主義の中核であると信じていた(ジェファソニアン・デモクラシー)。彼らの独立性を守り高めるためにも、連邦政府は強大であってはならない。これは南部の利益であった。

 ハミルトンとジェファソンはそれぞれ、今日の共和党と民主党の源流を形成した人物でもある。その後のアメリカ産業の発展で、共和党は、大企業の活動を規制する強い連邦政府を嫌うようになり、民主党は社会的弱者を支持基盤とすることから、弱者保護のための強い連邦政府を志向するようになった。国連を世界政府になぞらえば、共和党の一部が国連に強い不信感を持つことも理解しやすい。

 (3)ウィルソニアン 民主主義的な理念を世界に押し広めることこそ、アメリカの使命でなければならない、と考える。第一次世界大戦の大統領ウッドロー・ウィルソンはその旗手であった。アメリカ国内で法の支配や三権分立が成立するとすれば、国際社会でもそうならないはずがあろうか、とウィルソニアンは信じるのである。

 (4)ジャクソニアン アメリカの物質的な安全と繁栄を最重視し、そのためなら赤裸々な実力の行使を辞さない立場であり、国威の高揚にも熱心である。アンドリュー・ジャクソン(第七代大統領)は正規の教育を受けず。叩き上げの軍人として米英戦争で英雄となり、大統領にまで登りつめた人物である。ジャクソンが当時の辺境テネシー出身であったことも(拡張主義的で安全保障に敏感だという意味で)、この潮流と無関係ではない。ブッシュ政権で言えばラムズフェルド国防長官やディック・チェイニー副大統領がこの路線を代表している。p37-39

まとめると
(1)ハミルトニアン
海洋国家 対外関与に積極的 国力の限界に楽観的
(2)ジェファソニアン
大陸国家 選択的な対外関与 国力の限界に自覚的
(3)ウィルソニアン
普遍的な理念を外交目標として追求
(4)ジャクソニアン
国権の発動や国威の効用を重視 軍事力に傾斜
ってことらしいです。p40

[ アイデンティティの模索――最近の研究動向 ]
国際政治を主として国家間のパワー分布状態から考察し、そこでの対立と摩擦を重視するのがリアリズムという見方であり、他方、国際政治と国内政治の連動、国際社会の相互依存に強調の可能性を重視するのがリベラリズムという見方である。この二つが国際政治学の代表的な学派であった。
 だが国内社会をどう認識するかによって国際政治のイメージも変わってくる。国際政治がパワーの分布や相互依存といった対外的な要因だけでなく、認識やイメージという内在的な要因に強く規定され構成されるという見方が、構成主義(コンストラクティヴィズム)である。例えばもしも宇宙人が突如として地球に現れても、彼らを友好的と見るか敵対的と見るかは、多分にわれわれのイメージや認識による。こうした最近の見方は、社会学の国際政治への応用でもある。p41 42

ジョージ・ワシントン大学のヘンリー・ナウによれば、「新世界」たるアメリカには、妥協や権謀術数、他者への依存を繰り返してきた「旧世界」(アメリカの建国当初はヨーロッパを意味したが、ここではアメリカ以外の世界全体を指す)とは異なるという自己イメージ(アイデンティティー)がある。この自己イメージがアメリカ外交を強く規定しており、「旧世界」への関与を避けようとするナショナリストと、「旧世界」をアメリカかしようとするインターナショナリストの間で、葛藤が生じる。この中間に位置するのがリアリストで、国益のためなら「旧世界」への関与を厭わないが、それを改造しようとは思わない。p42 43
 
 対外的な危機が高まると、アメリカはリアリスト主導でそれを克服するが、平時に戻ると、ナショナリスト主導で「旧世界」から身をひくか、インターナショナリスト主導で「旧世界」を改造しようとして国力を磨耗するかのいずれかを繰り返してきた。だが今日の世界で主要国間に育ちつつある民主主義的な価値と市場経済の共有が、国際社会でのアメリカのアイデンティティーを拡大し、アメリカ外交の旧来の振幅を狭める可能性がある、とナウは期待している。
 かなり楽観的な認識かもしれないが、コンストラクティヴィストによれば、そうした認識が広がることこそ、重要なのである。逆にいえば「帝国」という言葉が一人歩きすればするほど、実際にアメリカを「帝国」への道へ駆り立ててしまうかもしれない。いずれにしても、ナウの議論は。アイデンティティーというアメリカ外交を考察する際のもうひとつの支店を提供してくれる。p43

 以下国際システムと国内政治、個人という三つのレベル、パワーを構成する力、富、価値という三要素をヨコ軸に、四つの歴史的潮流をタテ軸にさらにはアイデンティティーまで意識しながらアメリカ外交を考察するという難題がわれわれを待ち構えている。p44 …というと難しそうですが、この後アメリカ建国からの歴史が語られていくわけですけど、アメリカを中心とした近代史の本としては、かなり読みやすいと思います。あまり前提知識も必要としませんし。何より分かりやすいと思ったのはスエズ危機(エジプトがスエズ運河を国有化したのを契機に、英仏がイスラエルと図ってエジプトを攻撃したことにアメリカが反発し、ソ連とともに撤退を強要した事件)で今までなんでアメリカがソ連と協調したのか全く理解できなかったのがこの本だと、アイゼンハワーがジェファソニアンで、対外的な武力行使に極端に慎重であったのでソ連と対立しなかったとすっきりと説明されています。
 以下主な政治家と4つの分類の関係についてまとめると。

モンロー: ジェファソニアン ヨーロッパと距離をおく(ただしラテン・アメリカには干渉的だった)p55

T・ローズヴェルト: ハミルトニアンとジャクソニアンの混合海軍力を拡張主義的な外交政策に連動させようとしたp70

ウィルソン: ウィルソニアンの由来 第一次世界大戦

F・D・ローズヴェルト: ウィルソン的価値を継承 第二次世界大戦p89 国際連合ウィルソニアン的国際構想とT・ローズヴェルト流の権力政治のハイブリット

トルーマン: トルーマンドクトリン。ウィルソニアン的で単純な善悪二分論のレトリック。ブロック経済の反省に基づくハミルトニアンの自由貿易構想と、自国経済の再建を最優先する、一国社会主義路線の対立。p101

アイゼンハワー: ジェファソニアン 対ソ友好的。スエズ危機で同盟国英仏の行動を強く牽制。p110 111

JFK: ウィルソニアンとハミルトニアンの混合p121

ジョンソン: トンキン湾事件 ジャクソニアンの衝動p128

ニクソン・キッシンジャー: ジェファソニアンでありウィルソニアンとは対極的。ハト派やリベラルのウィルソニアン、そしてタカ派右派のジャクソニアン左右両派から批判される。p136

カーター: 戦後の歴代の大統領の中で最もウィルソニアン的。最もジャクソニアン的でない。キーワードは「人権」p150

レーガン: 軍事力の効用や国威に敏感だという意味でジャクソニアンであると同時に外交の道義性を重視する点でウィルソニアンp164

G・H・ブッシュ: ビジョンとか言うもの(ブッシュ)とは無縁であり、ウィルソニアンとはほど遠かったp178ハミルトニアンの国際協調路線であるp185

クリントン: ジェファソニアンと同時にウィルソニアンp189 190

G・W・ブッシュ: まったく外交経験がない。
チェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官: アメリカの軍事力に強い信を置く典型的なジャクソニアン。
パウエル国務長官: アメリカの国力の限界を意識して選択的な対外関与を志向するジェファソニアンp213

 また最近の本なのでイラク戦争についても触れられています。その内容は、
・イラクは12年間で17の国連安保理決議を無視し、国連調査団も追放したp221

・イラクの国内情勢についても、「人々の窮状があり心を痛めるのが当然だろう(ブッシュ)」p221

・イラクとアルカイダの関連(略)両者の関連は乏しいと専門家の多くはみなしていた。p221

・米英両国が、イラク問題に関する新たな国連安保理決議を提出し、イラク政府が大量破壊兵器の査察規定を遵守しない場合武力行使を容認するように求めた。だがフランスは「武力行使は容認できない」ロシアも「査察再開を最優先すべきだ」と反対し、中国もこれに同調した。p222

・この間、ブッシュ政権は、大量破壊兵器を保有する敵への先制攻撃を正当化し他国の追随を許さない軍事力の優位を堅持して、中東での民主主義を促進するという方針を(略)表明したp222

・十月には連邦議会の上下両院も圧倒的多数で、対イラク武力行使容認決議を可決した(もちろん、ケリー上院議員も賛成投票している)p223

・十一月に、イラクに無条件・無制限の査察受け入れを求め、これに対する妨害や武装解除義務の不履行があった場合は「深刻な結果」を招くと警告し、安保理で対応を協議するという安保理決議第一四四一号が、満場一致で可決された。p223

・国連安保理決議第六八七号でイラクに保有が禁止されていた射程百五十キロ以上のミサイル「アッサムード2」が発見される一方でフセイン政権はあくまで小出しにしか査察に協力しようとせず、米英はこれを不十分で非協力的とみなし、仏独などは査察は効果を挙げつつあると主張した。p223

・米英とスペインは、対イラク武力行使を明確に容認する更なる国連安保理決議案を可決しようとしたが、フランスが拒否権発動の可能性さえ示す中で、安保理の多数の支持を得られる見通しは立たなかった。p223

・ブッシュ政権は開戦に傾くと反戦世論の強いイギリス、スペインなど同盟国への配慮から新たな国連安保理決議を求めた。イギリスやスペインの協力なしに、アメリカ単独で武力行使に向かうのは、国際的な正当性が乏しかったからである。p224 225

・だがこの新たな決議を可決することはできなかった。そのため、武力行使は、決議一四四一号の不明瞭な解釈と湾岸戦争時の六七八号と六八七号に根拠を遡ることになり、いっそう正当性の弱いものになってしまった。p225

・過去に国連安保理決議を繰り返し蹂躙し、査察団を追放したフセインが、今回査察に応じたのは、中東に大規模な米軍が展開したからである。しかしいったん大規模な兵力を展開すると、(略)イラクが大量破壊兵器を保有してないことが明確に証明されなければそのまま兵力を撤収することはきわめて困難であった。では、それが明確になるまで査察を継続してはどうか。だが査察継続中にも米軍は展開を続けなければならない(それなしにはフセインが査察に協力することはありえない)。その駐留経費は莫大なものであった。p225

・仏独などは査察延長を主張しながら、それに伴う米軍駐留経費の分担を申し出ることはなかった。p225

・もとより、「だからブッシュ政権の対イラク武力行使は正当化できる」と筆者は論じているわけではない。ただ、「大義なき戦争」という批判で片付けるには複雑すぎる背景がある、と指摘しているのである。p226

…まぁ2chなんかでもアメリカ擁護派の人がよく言うことと似ていますが決して正当化できるといっているわけでは無いそうです。気になる方は当時の記事と思われるこちらをどうぞ。
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt54/...

http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/...
http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/...

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