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永島慎二「漫画のおべんとう箱」

  • 永島慎二「漫画のおべんとう箱」の画像

つい先日,手に入れたばかりの「漫画のお弁当箱」.
しばらく放ったままだったそれを,開いて直ぐにこの文章にぶちあたったままもうそれしか読めずに仕方なしにそれを写す.

--

いい時期(とき)に往(い)きました
うらやましい

さらさらこんな
俗調うすらやかましい
亡者現世にゃ
さよならするのが
尋常だ

それでも
貴方のこの世で痢(ひ)った描き作品(カス)は
遺作集などと銘うって
出るのですから
エエじゃあないですか

ニコチン漬けの
急性酸素欠乏症の
弱者共や
言語パズルの大好きな者共が
貴方の本を
コールド・ウェルやヘミングウェー
O・ヘンリーなどと
並べて置いてしばしの間
生前を偲んでいても
眉ひとつ動かす必要はないのです
貴方は往(い)ってしまったから

どのように受けとられ
どのように伝わって
どのように生まれたか

貴方は生前のように
意にとめなくていいのです
もう苦しまなくていいのです
もう己を追いつめなくていいのです

必然の有ようを
美しさの探求を
衝動の具現を
もうしなくていいのです

想えば貴方ほど
己の有ように
許しのない人はいなかった

貴方の旅立(しじ)に餞(たむ)ける賛辞は
随分といろいろあるけれど
文字(もんじ)にするには拙いし
体系付けて並べたて
掻き回してひと廻り
ワンと啼いて見せるには
あまり何処の誰やらに
似るようで……

直々(ただただ)
貴方の吐露した作品(カズカズ)の
血の滲んで浸みている
優しい奴と哀しい奴の
好ましくて愚かしい
群像達と
誰もこない片隅で
孤り対話(かた)っていようと想います

貴方の居ないこの後に
似たような人が出るでしょう
それは偽物に違いない
きっと偽物に
他ならないのです

とにかく
いい時期(とき)に往(い)きました

聞こえてきます浅知恵を
ふりしぼってのだみ声が
デカダンダンと音のする
擬音をバックに
ポーズをたっぷり
エキセントリックにアジテーション
状況過多症の
カルテを隠して
ひたむきなどを看板に
がなりたてる亡者共の
住んでいるこの世から
実にいい時期(とき)往(い)きました

あまりに優しく虚ろいやすく
哀しさなどを知ってるお人は
耐えていける時期(とき)では
ないのですから……

いい時期(とき)往(い)ったのです
往(い)ったのですよ
 では            合掌

(「遺作集に寄せる唄」村野守美)

--

永島さん,こんな,カッコつけた文章をたどたどしく,振り仮名まで写さずにいられない気持ちが分かってもらえるでしょうか.
あなたは絵を描いて,それを遺した.あなたは書いていたよね,傷つくような心があるなら,俺が進んで傷つけてやる.みんな,あなたを慕っていたのにね.

「かかえきれないほどの厚い漫画の本がいくら見ても終わりのこない、そんな漫画の本があったらなあ…」30年も前に,遺作集を作って,それを実現してしまった永島さん.
手元にある,四冊のこの本は随分もうやつれている.みんなあなたのことを愛していた.

あなたはこうも書いてた.人生の重い荷物の,中身の半分は自分の作った物だからわかる.残りの半分は分からない.たとえ半分の中身がわからない,信じられないという事が苦しい.
その半分の,さらに砂粒のごくひとつぶだけど,こうしてここにもいるよ.いつまでもいる.何年経ってから僕がそれを読んだのか,あなたは知らないでしょう.でも,貴方のいた街を歩いて,貴方の漫画に出会ったんです.

--

私にとって
自分の作品は、
枯葉とあまり
かわらなかったようです……。

不特定多数の
子供たちが……

どこかで見る、
そして、見おわったら
すてていいんです。

たとえば
……

何人かの子供が、
私の描いた作品を
とても好きになって
くれたとしても、

又は、私が
それを願って
描いたとしても、

それは
……、

愛の一部、
一部であるかも
知れませんが、
……愛そのものでは
ないと思います。

そして、
それは
私が誰かを、
愛したことには
なら
ないのです。

私の考える
児童漫画とは、
そうしたものだと
いうことです。

それでも、
私は生きてる
かぎり…、描き
つづけるつもりです。

(「遭難」永島慎二)

--

あなたはついに本当に死んでしまった.それをこうしてネットで知った.知ったからそこに書く.書く場所があって幸せなのか,それだけ不自由なのかわからないけれど,あなたがいなければ今の僕はいないと思う.いや,そんな分かったようなことは書きたくもない.くだらないことしか書けない.苦しい.

僕はあなたのいない街を見ていたんだ.あなたに一言だけ言いたい.一度でいい.あなたに会いたかった.何も言えなくても良かった.そこにいれば良かった.あなたと一緒に時間を過ごしたと思いたかった.
さようなら.永島さん.それでも,あなたはどこかにいると思っている.

永島慎二「漫画のおべんとう箱」

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digm
詳細情報
  • 価格: 全四巻・各1500円(普及版)
  • 10000円(500冊限定版)
  • メーカー: 青林堂
  • 年(代): 1974年
  • 2005/07/08更新
  • 2005/07/08登録
  • 1243クリック

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コメント (3)

2005/07/08

雲衣。 阿佐ヶ谷の「ぽえむ」を想い出したりして、、、

digm どうも,ごぶさたしております.書いてはしまったものの,どうすることもできずそのまま載せてしまいました.お恥ずかしい.それでもこれを書くのに,ビール4缶と煙草ひと箱が必要でした.後追いで作品に触れる若者であることが,こんな悔しいとは….

2005/07/11

きなり 私は、実際の永島先生に会い、とてもお世話になりました。ものすごくダンディで素敵な優しい人でした。

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