コクヨ・アガタ/A 日本の誇る高機能チェア GoodDesign賞
■コクヨのアガタ/Aは、コンテッサと並び、日本を代表する高機能OAチェアだ。Fritz FrenklerとAnette Ponholzerによる洗練されたデザインは、2001年グッドデザイン賞とドイツiFデザイン賞を受賞している(CR-G900シリーズ)。さらに、座・肘パットにテクノジェルを使った2004年モデル(CR-G1200シリーズ)、普及版であるAGATA/S、AGATA/DやAGATA/Vも、同賞受賞作だ。
■ここで高機能チェアとは、Aeron Chair (Herman Miller /Don Chadwick & Bill Stumpfデザイン、GD賞1996)を筆頭に、高度なリクライニング調整メカニズムを備えたOAチェアを指す。とくにアーロンチェアは、イームスなどと並び現代椅子デザインの代表作としてよく挙げられる。あくまでデスクワークの機能性を極限まで追求した実用品であるため、応接・鑑賞用のインテリアとは根本的に概念が異なる。
■OAチェアは、廉価、中級、高級の3つに分類できよう。パソコン周辺機器メーカーの作る1万円前後を廉価品とするなら(ELECOM、サンワサプライ、LOAS)、3-6万円台は中級品である(Giroflex33、AGATA/S、バーテブラ)。そして10万円を超える高級品は、精密メカを持つ高機能チェアと、総革張等の高級素材を使ったエグゼクティブチェアに大別できよう。高機能チェアとしては、輸入品のAeronや国産品のAGATA/Aの他、VitraのYpsilon (Mario & Claudio Belliniデザイン、GD賞2001)、StealcaseのLeep HD 、WilkhahnのModus (Klaus Franck & Werner Sauer他デザイン、GD賞1996)、そして岡村製作所のContessa (Giorgetto Giugiaroデザイン、GD賞2003)などが有名だ。
■1脚10万円以上の高機能チェアは、事務機器としては非常識なほどに高価だ。しかし、ギックリ腰や痔などの問題を抱えながら一日の大半を椅子の上で過ごす者には、決して理由のない選択ではない。高機能チェアの良さは、座ってみないと分からない。というより、良い椅子に座ってみるまで、椅子にも歴然とした機能上の違いがあることを、我々は知らないのだ。それは、外見や座り心地の好みといった印象論的なものではなく、機械製品の性能と同じ意味で厳格に機能的なものだ。
■高機能チェアを他から隔てる最大の特徴は、座面下の調整メカニズムにある。低価格品ではリクライニングの支点が座板と背板の接合部にあり、座面裏は何もなしに脚に接合されているに過ぎない。しかし、高機能チェアは、背板から座面下までをつなぐ一貫型フレームを、座面下の緻密なメカニズムが支点として調整している。アーロンやイプシロン、コンテッサでは錘のような金属塊、アガタやウィルクハーンでは座面下の三角型フレームが目立つ。この座面下のメカニズムとフレームこそが、高機能チェアの真価を分ける心臓部である。一見派手に見えるメッシュ素材やヘッドレスト等は、1万円の廉価品でも表面的に真似できるもので、二次的なものに過ぎない。
■こうして実現される主要機能は3つに大別されよう。
■第1に、座板と背板の高度なシンクロロッキング機能だ。高機能チェアは、直立からリクライニングへと背板を倒すと、腰を沈ませ膝を持ち上げるように座面もスムーズに連動して、身体の姿勢を自然に変化させる。水の中に浮いているかのようなこの浮遊感は、高級機種らしさをもっとも実感できる機能だろう。
■第2に、あらゆる角度でのホールドだ。高機能チェアは、直立姿勢でもリクライニングでも、背板がどのような角度にあっても、各位置でピタッと止まって腰をホールドする。とくにキーボードを打ち込んだりものを書いたりするときの前傾姿勢にも対応し、直立状態でも腰をサポートし続けることは、OAチェアとしてもっとも重要な機能だと思う。
■第3に、調整機能だ。高機能チェアは、昇降やリクライニング強度はもちろん、座面の前後や腰の形状まで、個々人の体型や姿勢に合わせて細かに調整できる。標準体型の人は調整機能が少なくとも大差ないかもしれないが、平均より大柄・小柄な人にはとくに重要だ。
■高機能チェアを強引に二つに整理するなら、アーロン、イプシロンやコンテッサを含む機能主義系と、ウィルクハーン、アガタやエルシオを含むインテリア系があると思う。前者は、メッシュ素材・メカニズム・形状でアーロンの影響を色濃く残し、ロボットやエイリアンのようなアグレッシブな形を持つ。後者は、シンプルなシルエットと布地の座面では、従来型のインテリア椅子と連続性を保つが、機能的なメカニズムを併せ持つ。ここでは、インテリア系のAGATA/Aを、機能主義系のアーロンと比較してみたい。
■AGATA/Aは、アーロンチェアに並ぶ価格帯だが、まずアーロンの方が優れているのは、①完全無比のシンクロロッキングと、②エルゴノミックな湾曲形状とメッシュの通気性だ。
■①空中を浮遊しているかのような感覚は、アーロン独特のものだと評価する。他方、アガタ/Aの難点は、リクライニングのスプリング強度が一定でないことだ。直立姿勢に近いときに比べ、倒す角度が大きくなるにつれ、リクライニングのスプリングがとても固くなる。そのため、スプリング強度をリクライニング優先に緩めると直立時のホールドが弱くなり、逆にホールド優先に締めるとリクライニングがしづらくなるのだ。
■②AGATA/Aは、新モデルならテクノジェル(旧モデルCR-G901ならポリウレタン製)のパッドが自慢だが、布の目が細かいこともあり通気性が悪いので、長時間座っていると熱がこもる。もっとざっくりした布地の方が良かったかもしれない。その点、アーロンのメッシュ座面の方が汗っかきには羨ましい。メッシュの埃掃除は面倒そうだが、座布のシミ取り等の手入れと似たようなものではないか。
■他方、AGATAの方がアーロンに勝るのは、①調整機能、②デザイン、③実売価格、そして逆説的だが④フラットな座板・背板だろう。
■①まず調整機能について、座面の右裏に操作レバーを4つまとめて並べてあるのは、AGATA/Aだけの個性だ。座面奥行、座高、背もたれ形状(ランバーサポート)、背板固定を座ったまま調整できる。とくに、柔軟にリクライニングする背板をレバー1本で固定して、硬めのチルトに切り替えられるのは、長時間のパソコン作業には重要だ。長文をタイピングするときの直立姿勢は、ネットサーフィンするときのくつろいだ姿勢と異なり、座面はやや前傾し背板は硬めの90度で腰を支える形が理想的だ。この硬軟の切り替えには、操作レバーが右手の届く位置にあることのメリットが生きる。椅子を正しく設定すると、今までの姿勢に無理があったことに気付き、背筋も肘も伸びて、身体や眼が楽になった。これは意外な収穫だ。
■②次に、アガタのすっきりしたデザインは、背面の個性的なフレームをアクセントとして、オフィスで複数並んでも調和が取れるし、居間のインテリアにも馴染む。他方、アーロンのエイリアンやロボットのような奇怪な形は、際立った存在感の裏返しでもあるが、他の家具の中でそこだけ浮いてしまう。さらにAGATA/Aは、W640xD580-800xH1015-1105mmmという日本人向きのサイズだ。バーテブラやGiroflex33よりは大きいが、アーロンB/Cサイズのように大き過ぎたりはしない(CR-G901は現行のCR-G1201より10mm小さい)。
■③第3に、アーロン・ポスチャーフィット・A/Bサイズは、中古やオークションでも3割以上は値引きされない。一般に10万円超の高機能チェアは値崩れせず、中古でも7-8万円は下らないため、手が出ない。たまに安い中古が出ても、欧米人サイズで不評だった旧モデルのB/Cサイズだったりして、サイズが合わない(要注意!)。今愛用するAGATA/Aは、旧モデル(CR-G901)ながら値札がついたままの新古品に、Giroflex33の実売価格と同水準の破格の捨て値がついていた。そこで当初予定のGiroflex33の代わりに、中古AGATAを入手する運びになったのだった。
■④最後に、アガタ(ウィルクハーン、エルシオも)のシンプルなフラット形状は、アーロン(イプシロン、コンテッサも)の複雑な湾曲形状よりも、座り手の自由度を増すと思う。アーロンの人間工学的に計算された湾曲は、たしかに身体にぴったりして素晴らしい。が、エルゴノミクス形状は、体格による相性や座り方の癖によって、両刃の刃だと思う。
■なぜなら、作業が長時間に渡ると、必ず定期的に姿勢を変えることになるからだ。肘をついて身体を片側に傾けたり、足を組んで身体の軸をずらしてみたり、あえて腰を前にずらして椅子の先に座ってみたりする。そのとき、計算され尽くしたエルゴノミックな形状が、その人固有の姿勢変化の癖に合うとは限らない。少なくとも、アガタでは楽にアグラはかけるが、アーロンでそんな無茶は想像しにくい。
■10分座って気持ち良いことと、8時間座って疲れないことは、異なる。高機能チェアをわざわざ選択する人は、1-2時間程度ちょっと腰掛けるためではなく、場合によっては8時間以上の長丁場を前提にするからこそ、廉価品から乗り換えている。したがって、高機能チェアの真価は、座って1-2時間が過ぎた後の姿勢変化に、椅子がいかに対応できるかでも左右されるのではないか。
■未所有のアーロンはともかく、愛用のアガタについては、姿勢の柔軟度が高いとは言える。もちろんアガタも、姿勢を大きく崩すことは前提にしていない。ヘッドレストなしの場合、フルリクライングしたときには首にフレームがあたってくつろげないし、布貼り背板の場合、身体の軸を片側に行儀悪くずらすと、裏側の金属フレームが背にゴツゴツとあたって邪魔である。
■それにしても、背もたれのロック機能は便利だ。これを利用することで、仕事モードとくつろぎモードを使い分けている。前傾姿勢に近い仕事時は、直立姿勢で腰をサポートするよう背板をロックしている。背伸びなどのときも、チルト機能が働いて一定度の自由度がある。他方、くつろいで本・書類を読んだり、ネットをザッピングするときは、ロックを解除する。リクライニングはあえて緩めにしてあり、少し力を入れるだけで自由に背を倒すことができる。
■アガタが最初に届いたとき、実は少しガッカリした。10数万円という高機能チェアの新品価格は、椅子1脚として法外に高い。同じ予算で、天然木や牛皮をふんだんに使った一生ものの高級椅子や、憧れのミッドセンチュリーのデザイナー椅子が買えるからだ。15万円もあれば、家の食卓椅子をすべて処分して、イームスやパントンの4-6脚セットと入れ替えてしまうことすら可能だ。それに比べ、アガタは素材や軋みが頼りなく、安っぽく感じたのだ。
■しかし、細かく調整を終えて、日常的に使っていくと、無造作な姿勢転換のときに、「おっこれは!」と軽く驚くことがある。まるで生き物と対話しているかのように、反応してくれるからだ。高機能チェアの真価は、使っていくうちに少しずつ分かってくる。毎日使い込んできたバーテブラチェアは、たしかに裏表含めてバランスの良い中級椅子だと思う。が、アガタは機能のレベルが違う。
■仕事のためのOA椅子なのに、座ること自体が楽しくなってしまうような感覚は初めてだ。定価設定の妥当性は横に置いて、それだけでもこの椅子を手に入れて良かったと思う。
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■KW登録後、1年近く愛用している。高機能チェアにはすっかり慣れてしまい、当初の驚きやありがたみが薄れてしまうほどだ。しかし、前傾姿勢を含めて、どのような角度でもピタリと止まって背中を支える精度は、さすがに高級OA椅子を実感する。豊富な調整方法により、背中をS字型に合わせているのも気持ち良い。
■あえて贅沢をいうとしたら、座面の奥15cmが10度ほど上に持ち上がっているのが、尻の端に当たってやや気持ち悪い。座面は平板で良いのではないか。また、ほぼ大半のOAチェアにいえることだが、旧来からの両袖机に比べ、サイズが大きめだ。両袖の引き出しに肘がぶつかり、それ以上身体を机に近づけることができないのだ。引き出しがキャスター式に独立した、最近のシンプルな机を使うべきなのだろう。ないものねだりでは、メッシュの座面とヘッドレストがあったら、それはそれで便利だと思う。
■最後に、OAチェアの問題ではないが、机にも不満がある。日本の事務机は高さ70cmでほぼ統一されている。しかし、身長170cm弱の自分が肘を直角にして手首を伸ばすには、椅子の高さを思い切り上げて、20cmのフットレストに足を置くことが必要だ。逆に椅子を優先的に設定し足を床につく高さにすると、肘を鋭角に曲げ手首も曲げてキーボードを打つことになる。そもそもキーボードは手首を曲げて打つものなのか、なぜ高さ50cmの机がないのか、疑問だ。
■椅子の上で行儀悪く胡坐をかいたり、設計者が見たら怒りそうな想定外の使い方もしている。が、AGATA/Aには基本的に満足している。
デザインA、機能A、革新性A
AGATA (コクヨ) Fritz Frenkler
& Anette Ponholzerデザイン、GD賞2001
http://www.kokuyo.co.jp/furniture/...
Aeron Chair (Herman Miller)
Don Chadwick & Bill Stumpfデザイン、GD賞1996
http://www2.hermanmiller.com/global/...
Ypsilon (Vitra)
Mario & Claudio Belliniデザイン、GD賞2001
http://www.vitra.com/products/...
Leep HD (Stealcase)
http://www.leap-online.jp/
Modus (Milkhahn) Klaus Franck
& Werner Sauer他デザイン、GD賞1996
http://www.wilkhahn.co.jp/products/...
Contessa (岡村製作所)
Giorgetto Giugiaroデザイン、GD賞2003
http://www.okamura.co.jp/product/...
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