十六代善五郎「ぐい呑み」(安南写)
もう、かれこれ20年もつき合っているだろうか。ぐい呑みです。昔、金沢に魚を食いに行った折、ぶらりと寄った片町の構えの大きなとある骨董屋。その片隅に鎮座しているこれと目が合ってしまった。運命の瞬間ってやつだ(笑)。ん万円だかの表示があって、その場は諦めたのだが、帰る日の汽車の時間の間際になって、どうしても欲しくなり、タクシーとばして買い求めた記憶がある。
酒を満たして唇にあてた時の感触がことのほか柔らかく、やさしい酒をさらにまるく優しくしてくれる。十六代善五郎が好んだ兎の絵が素敵で、家人は「うさぎちゃん」と呼ぶ。安南焼の技法を使ったらしい細かい割れの模様があって、20年間使い続けるうちに、そこに酒が染みてきていい風合いになってしまった(笑)。骨董的な価値はもう無いだろうが、私にとっては大事な「家酒(いえざけ)の朋」である。
焼き物に詳しいわけではないが、調べてみたら、十六代善五郎さんというのは、京都の「千家十職」という茶道具を専門に作る十の一族のなかで陶磁器を専門にする土風炉師の職人さんである。十六代は数年前にお亡くなりになって、今は次の代の方が継いでいる。十六代は正式には「永楽善五郎 即全」という。永楽は焼き物の窯の名前なのだろうか。裏側に「永楽」の刻印がある。
最近になって、善五郎の安南写のぐい呑みをもうひとつ偶然入手できた。こちらは息子と一緒に飲める日までとっておくことにした。
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