こうの史代「長い道」
『貴方の心の、現実の華やかな思い出の谷間に、偽物のおかしな恋が小さく居座りますように。』(あとがき)
『夕凪の街、桜の国』のこうの史代の新刊。
甲斐性なしで、ちゃらんぽらんで、女好きの夫。浮世離れしたノーテンキな妻にはいつまでも忘れられない人がいる。ひょんなことから一緒になったワケアリ夫婦のおかしな恋の物語。
いつもながら、おそろしく昭和初期な絵柄。時代は恐らく現在に設定されていると思われるのに、内容も絵柄に負けずアナクロで、パッと見仲良し夫婦のほのぼのエピソードが続く。時折『小さな恋の物語』風だったり、西岸良平風だったり、面映さを感じるぐらいの詩心あふれる短い物語の数々。
だが、そうした一連の過去の幸福感のうちにある作品とはちがい、この作品は一見ほのぼのとしながらも、思いのほか強いほろ苦さ、せつなさが残る。決して後ろ向きでない明るい諦めは向田邦子の「あ、うん」などにも通じるものを感じる。とっても大人の作品だなあと思う。
「わたし あなたと結婚できて良かった こんな夜中に一緒に散歩してくれる人がいるっていいわね。」
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