大胯びらき
「ジャック・フォレスチエは涙もろかった。」
という書き出しからはじまる、ジャン・コクトーの自伝的青春小説。
「愛し、愛される、これが理想である。ただし、同一人物について、という条件が必要だろう。」という、この簡潔で的を得た作中の表現が、この小説の全部かもしれない。
出会って、恋をして、恋に破れて傷つき、やがて立ち直っていくという青春の普遍。
ただそれだけなのだけれど、コクトーの独特な、詩情それだけをエンジンにしているような鋭い文体が、心のなにかを刺激する。
孤独で繊細な主人公の少年ジャックとは正反対に、奔放で、浮気者の踊り子ジェルメェヌがとても印象的。
彼女のように自由に生きられたらと、初読から十年ちかく経ったいまでも思うけれど、結局わたしはジャックのような不器用さやぎこちなさをまとっていくのだろうと思う。
ちなみに、ちょっと前に本屋で、この本がやらしい文庫の棚に置いてあるのを目撃して驚いたというか笑いましたが、そういうたぐいの本ではまったくありません、残念ながら。
大胯びらきとは、大きく開脚するバレエの技法、グラン・エカルテ(原語に忠実に読むと、ル・グラン・デカール、というのかな。)のことらしい。期待して買ってがっかりした人はご愁傷様。
ついでに、後書きにあるように、翻訳は当時25歳、仏文科の学生だった澁澤龍彦。澁澤の翻訳でなければ、この本はこんなにいつまでも胸にひっかかるものにはならなかったのでは、と思うくらいの名訳です。
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