第一阿房列車
わたしはただいま、第一阿房列車の旅もなかば、
鹿児島は薩摩線にさしかかったところです。
右手に見えますのが、漱石門下にして短篇・随筆の名手、酒飲みでへんくつで火の車の借金大王こと、内田百間先生。
左手に見えますのが、先生のお弟子で家来で、いつも無口で風采のあがらないヒマラヤ山系君こと平山三郎氏。
そんなアホウなふたり組が、用事もないのに旅に出る。また愉しからずや?
そして、旅の挙げ句に書かれた本が、この阿房(アホウ)列車シリーズ。
こんなゆるゆるの旅なら、いますぐ荷物をつめて出かけたい。
無用の旅は、そもそも、「着いたらなにをする」という目的なんてありはしない訳で、着いたらまた帰ってくるという、ただそれだけのことである。
ぷらりと汽車に乗る。気持ちよく酒を飲む。
気が向けば、歌をうたう。もちろん鉄道唱歌をね。
観光なんかしなくてよい。旅の恥は掻き捨てる。
ゆえに、張り切りすぎない。肩がこらない。
しかしなににも増してゆるゆるなのは、百間先生とヒマラヤ山系君のしまりのない会話である。
第一に、歯切れが悪い。
百間先生がなにを話しかけても、ヒマラヤ山系君の返事はたいてい「はあ」か「そうですね」。先生がどんなにつっこみ甲斐のあることを言っても、いつもそう。ぼけの上に重なるぼけ。読者がひっそり心の中でつっこんでください。
第二に、噛みあわない。
いくら無口のヒマラヤ山系君でも、たまには喋ることがある。お酒という潤滑油の力などもある。しかし、突然ペラペラと話し出したかと思ったら、この人の言うことはたいがい意味不明(「山椒魚や海鼠は消極的だ」!)。呆れる百間先生がまた可笑しい。
第三に、意地がわるい。
百間先生のヒマラヤ山系君を見る目は、ちょっとしたいじめっ子のようである。泥坊のような顔だの、丸でどぶ鼠だの、熊の子だの、言いたい放題。それでいて先生は、山系君なしには旅ができない困った人である。しかし一方の山系君は、なにを言われようとどこ吹く風。なにしろ返事はまた例の、「はあ」。
こんな「いい加減のおやじと、とうの立った若い者」がくり広げる、いいあんばいの旅。
心地よく、どこまでもつづけ、と願いたくなります。
ついでに言っておくと、第一阿房列車のあとには、第ニ、第三の阿房列車が控えております。合計三つの阿房列車。一気に読むのもよし、だらだら読むのもよし。
でも、まあ、急がずにゆこう。
のんびりでいいよ。のんびりが、いいよ。
ねえ先生。
※百間の間の字は、もんがまえに月と読み替えてくださると正解です。
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コメント (5)
2005/12/18
紙飛行機 「山椒魚や海鼠は消極的だ」確かに(笑)高校のとき先輩が菌類を評して「あいつらには愛がないよ」とやはり意味不明のことを口走っていたのを思い出しました。
gallop 菌類には愛がない 笑。先輩、素敵 笑。百間先生は、頑固者のへりくつ屋でも、愛ある人だと思います。ヒマラヤ山系君も、なんだかんだ言って、先生が好きだし、先生も山系君がすきなのですよ。このこの!
D-day どの列車の時か忘れましたけどヒマラヤ氏が持ってきたカメラを嫌がりつつもポーズをなにげにとってあげてる話が好きです、ただの偏屈じゃないのがまた魅力ですね^^
2005/12/19
gallop >D-dayさん 嫌がりつつなにげにポーズ!笑。それいいですね。へそ曲がりなやさしさ。ふふ。まだそこまで読んでいませんが、先がたのしみです。
gallop >カミキヒトさん おお!ナイスタイミング!車内で思わずにやけないよう、お気をつけて。実はわたしはこの本に夢中になって二度、自分の駅で降りそびれましたよ。
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