ハルキヲメグルボウケン
春樹をめぐる冒険
昨日の土曜日(2006年3月25日)、国際シンポジウム&ワークショップ「春樹をめぐる冒険-世界は村上文学をどう読むか」、に行ってきました。500人ほど入る会場で申し込みは1000人を超えたそうですので、二倍強の倍率があったようです。結構ラッキーなことだったのかもしれません。
出席者も豪華で、柴田元幸、沼野充義、藤井省三、四方田犬彦、米国の作家リチャード・パワーズの各氏の他、各国語版の村上作品の翻訳者の方々が二十名近くいたように思います。すごいですね。主催が国際交流基金だとのことですが、一人の日本人作家を語り合うシンポジウムに世界中の翻訳者・研究者が集まって語り合う、なんて画期的だし、いままでなかったことだと思います。世界中の、というのは誇張ではなくて、フランス、ブラジル、カナダ、ハンガリー、ドイツ、デンマーク、インドネシア、チェコ、ノルウェー、韓国、ロシア、台湾、香港、アメリカ、ポーランド、マレーシア……と、本当にグローバルです。因みに、英語-日本語の同時通訳があり、大変助かりました。ただし、翻訳者の方々からの発言はほとんどが日本語でした。たどたどしい方も結構いて、それはそれで微笑ましいものでした。
以下、概要を記します。
始めにパワーズさんから「ハルキ・ムラカミ-世界共有-自己鏡像化-地下活用-ニューロサイエンス流-魂シェアリング計画」と題した基調講演がありました。なんでも、近々当日話された話のロング・バージョンが翻訳されて「新潮」に載るそうですので、詳しくはそちらで読んでいただくのが一番です。読む価値はあると思いますよ。面白かった。
以下は、ぼくの勝手な解釈です。
パワーズ氏は脳科学の知見から、ある行為を自ら実際に行う場合に起こる脳内のニューロンレベルの反応は、実は他者が同じような行為を行うのを「見る」だけで、鏡のように同じ反応が脳内で起きること、それどころか、「想像」するだけで、場合によっては実際に行為する場合以上の反応が起きることさえあること等を紹介されました。しかも、外界からの刺激や自身の行為に脳のどの部分のニューロンやシナプスが対応しているか等のマッピングから、外界と脳内の対応関係はこれまで考えられていた以上に複雑精妙だ……。ハルキが作り出す重層的な世界のことを考えるとき、まさにその素晴らしい想像力によって作り出される小説世界は、脳内と外界の複雑精妙なミラーイメージを思わせる。……と、言っていたかどうか、定かではないが、まぁ、そんなことを言っていました。たぶん、きっと。
次に、「翻訳者が語る、村上春樹の魅力とそれぞれの読まれ方」で数名の翻訳者の方が代表で壇上にあがって、それぞれの春樹作品との出会いや、翻訳上の楽しみや苦労を語った。
休憩をはさんで、「翻訳本の表紙カバーに観る村上春樹/日本イメージ比較」と題して、スライドで各国語版の村上本の表紙を映写しつつ各翻訳者の方々からもコメントをいただくというもの。いろいろなエピソードがでて一番楽しい時間でありました。最後が「映像世界にみる村上春樹」で映像化された村上作品の一部を鑑賞しつつ四方田氏が解説されました。
午後1時から午後六時過ぎにわたる長時間の一般公開のシンポジウムで、終始和やかに熱心に行われました。26日の日曜日も主に研究者や翻訳関係者によるシンポジウムが開催されたはずです。
さて、ぼくにとって一番心にのこったこと。それは、村上春樹作品がなぜこれだけグローバルな人気を博するようになったのだろうか、という疑問です。当日集まった翻訳家や聴衆に共通するのは紛れもない村上作品に対する強いシンパシーだったと言ってよいと思います。パワーズ氏が示唆したように、それは村上作品が、脳科学の最新知見に対応するほど深いレベルで人間の脳や意識に対応する作品になり得ている、と言うことだろうか? それも確かにひとつの仮説として面白いです。しかし、それで十分に説明できるとも思えない。
世界のグローバル化は、普遍的な情報伝達への道を開く一方で、さまざまな価値・宗教・習俗の対立は返って激化する結果を招いていることも確かです。しかし、村上作品は東洋の島国の一角から世界の人々の心に強く働きかけ、対立を表面化させるより、静かで熱いシンパシーをこそ生み出しているように見える。
これは大変難しいことであるはずなのに、なぜこんなことが起きているのだろう。このことを解明することは大変重要な課題だとぼくは思います。今後少しずつでも考えていきたい。
みなさんはいかがお思いですか?
付記)シンポジウムの全体については、雑誌「文学界」で特集記事が組まれるそうです。
- 2006/03/27更新
- 2006/03/27登録
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