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2008/10/08

ふしぎなポッケでかなえてくれる



きのう、実家に帰省する夢をみた。

いつものように廊下の向こうの台所から居間に入ろうとすると、
なんとそこにはドラえもんがいた。
正座をして居間のコタツに入っている。

思わずびくりとしたが、戸口で目が合ったのでついその場で会釈をした。
母は茶ダンスと台所の間をいそいそと往復して、お茶を淹れる用意をしている。
父は不在のようだ。
窓の外は曇り空で、家の中はしんと静まり返っている。

戸惑ったが、間のもたない妙な雰囲気に背を押され、いつも自分が座るあたりに
ドラえもんと隣り合わせに座ると、一応コタツに足を入れてみた。
すると、お邪魔しています、いまお帰りですか、というようなことを、きちんとした
丁寧語で話しかけてくる(のぶ代の声で)。
なんて礼儀正しいロボットだろう。

それからわたしたちはしばらく世間話をした。
会話は始終生硬く、お互いに恐縮しながら景気の話やなんかをしていた。
ちかごろはなんでも値上がって、どうですか、生活は。大変ですか、と問われたので、
ええ、ほんとに、なんだかまったく世知辛いですよね、なんてことをいい加減に答えた。
すると、
携帯がかばんの中で鳴り出した人のように、急にポケットのあたりをごそごそしたかと思うと、
ドラえもんは言った。

「( テレレレッテレー ) げーんーきーんーー 」

突然の大声。
そして、ばさばさばさばさっと札の束が落ちる。古い田舎のコタツの上に。

ざっと一千万円くらいか。
そんなもの見たこともないから、見当もつかないが。

戸口では、母が茶筒をつかんだまま、動きを止めていた。



というところで、目がさめた。
携帯のアラームが、あほのように明るく鳴り響く。
午前六時。

外は雨らしく部屋は冬のように暗くて、
給料日まではまだ遠い。

2008/04/25

なのに、あの箱はいつもわたしとともにある

引越をするたびに、いつも中をあけてはみるものの、結局そのままふたをとじて押入れのいちばん奥にしまいこむ箱、というものをわたしは持っている。
その中には、友人が東南アジアのどこかの国で買ってきたエビのぬいぐるみとか、むかし作ったサークルの機関紙とか、今ではもう交渉のない人からもらった長い手紙とか、できれば目に触れたくはないが、かと言って捨てられないものが押し込まれている。
そして、何か失くし物があるたびに、どうもあの箱のどこかに入っているような気がするのだけれど、さがしてみたところで実際に入っていたためしがない。そういう箱だ。
大事なものは捨ててしまう。
なのに、あの箱はいつもわたしとともにある。

去年引越をしたときも、なにか妙な気分であのやたら重たい箱をひらいてみた。どれだけ前のものか判らない現像していないフィルムや、たぶんもう捨ててしまっただろう服のボタン。眺めるだけで疲労がたまる。大昔に兄からもらったブックバンドまで入っていた。
大昔って、どれだけ大昔かと言うと、わたしも兄も小学生くらいのときだ。どうしてこんなものをここまで後生大事にとっておいたんだろうかと考えたが、たぶん使いかたがわからなかったからだろう、そういうものって妙に魅力的にみえたりすることもある。それと、兄がわたしにくれるときに、もったいぶって「これはいいものだ」と言ったのをおぼえている。
これはな、お兄ちゃんのだけどな、かわいい妹のお前のためにやるからな、と兄はいつもそういう芝居がかったものの言い方をして、人に恩を売るのがうまい子供だった。その兄もいまや廊下を駆け回る男の子とちいさい女の子の父親だ。自由帳のどのページにもガンダムの頭の絵ばかり描いていたくせに、いまではいっちょまえに何とかのコンサル(謎)をしたりしている。
今みるとそのブックバンドはなんだか安っぽい素材で、こんなものを大真面目にいいものだと思いこんでしまっておいた自分が陽気なばか者に思える。
でも結局、あの引越のときもそれを捨てなかった。捨てようとさえ思わなかった。
ただ箱に戻しただけで。一度も使ったことがないのに。

いつかあのちいさい女の子がもう少しおおきくなったら、兄と同じセリフでくれてみようか。使い方を教えずに、すごくいいのだと言って。
あの子が「?」という顔をしながら、でも目を輝かせるさまが、なんとなくもう瞼のうらに見えてくる。

2007/04/02

ぽんと蹴りゃ、にゃんと鳴く、

猫を飼いはじめた。

先週、土手を歩いていたら、俺を飼えばいいんじゃないの、
とヒゲと頬をわたしの向うずねに擦りつけてきた野良猫が、わたしをつけまわしたあげく部屋に上がりこみ、出て行かない。
人間の擬猫化ではない。断じてそうではない。だいたいあの猫はメスだ。
やいごはんを出せ、と鳴いてみるも無視されると、猫は後ろ足を高くかかげて毛づくろいをはじめる。

ついでに言うと、わたしも先月からようやく仕事を再開して、いろんな意味で生活が一変した。
その仕事というのが世にいうSOHOという働きぶりなので、わたしは一日中部屋でわだかまっていて、たまにプリンタの紙がでてくるところにドラえもんのような前足をつっこもうとする猫の頭をぺしっとひっぱたいている。
猫というのは懲りない生き物なので、何度となくひっぱたくが、しかしまだ懲りない。いでよ魔神。落ちてこいタライ。

まあね、だいたいの天罰とタライはわたしの手によってくだされる訳なのだけれども。
猫にとうとうと説教してみた。ここに手つうか足を入れるとね、とくにきみのような毛のはえた手というか足を入れちゃうとね、紙はつまるわ印刷はずれるわ修理が必要になるわでもう大変なんだから、わかったかーゴリゴリゴリゴリ!
グーで頭をなでなですると、たいがいの猫は嫌がらせと気がつくようだ。

あんまりいじわるすると、猫は人と目を合わせなくなるんである。名前を呼んでも返事はない。頭をやさしくなでてご機嫌をとろうとしても、眠いんですけど何か御用、とそっけない。ああなんだか行動がわたしに似ている、どこで見てきた、やなやつだ。最後は後足で、てい、と蹴られた。ていてい。と再度蹴られた。
しかし爪は深くひっこんでいてそこには愛もある(と解釈する)。

猫は動産だ、というのは仏山さんのコメントだが(なにを言いたいのか)、
この毛ムクジャラというか大きい毛玉というか、もうほんとうに動く毛のかたまりとしか思えないクシャミ誘発物体にも、感情だの機嫌だの甘えだのやさしさだのがあって、曲がったへそを立て直すころには、わたしは足の裏に猫の頭突きをごつんと感じる。
頭突きでごめんと言う。
いいさ、猫君。怒っちゃいないさ。自分の思い通りにしたくなったり、さみしくなったりしてしまうのは、たぶんお互いさまさ。とわたしは足裏で猫のあたまをぐりぐりして
ちょっと気持がいい。

2007/03/02

あなたに、気づいて、ほしかった

先日、Oさんに出会い頭に「ね、サラブライト・マンってなに?」と訊かれた。

あーうん、それはあのー、スーパー・マンとか、スパイダー・マンとか、筋肉・マンとか、海鮮フカヒレ・マンとかそういうね、あれだよね。
するとOさんは、「へえ、そう! やっぱりね!」と言って真顔で去って行った。

いいのか? それで。




ついでに言うとOさんは、「医は忍術」だと思っている。
あー、まあ手術とかね、あれも言ってみれば、「術」だしね。起源は忍法からきてるらしいからねえ。ニンニン。
「へえ、そう? 初めて知った!」

・・・いいのか? それで。





(よい子の皆さんへ。
前者はサラ・ブライトマン、後者は「医は仁術(じんじゅつ)」と心得ておいたほうが身のためです)

2007/02/07

ながれる


橋の上から、川へ壜を投げているおっさんがいた。
冴えないおっさんだ。見た感じリポDらしき小壜を、二本、ひょいひょいと投げ捨てる。しかも、まだあと二本、小脇に抱えている。

わたしは別に正義漢ではないけれども、やっぱり川に平気でゴミを投げ入れる行為はいただけない。
なにかひとこと言ってやりたくなり、ちょっとゴミ捨てないでください、という言葉が喉もとまでせりあがってきた。
頭のなかには、よしもとよしともの漫画「青い車」の、「コラ!海にゴミ捨てたらあかんやないけ!」と釣り人が怒鳴るコマが浮かんでいる。

しかし、「ちょっと」の、ちょ、を言う間際に、おっさんが小壜のふたをあけて、中になにかちいさく折り畳んだ白い紙きれのようなものを押し込んでいることに気づいた。
まさか。それはあれか。聞きしに及ぶボトルレターなのか。
そんなリポDの空壜にか。

わたしは思う。
その紙切れに書かれているのは、見知らぬ誰かにあてた問いかけだ。
きっと銀行でただでもらっただろうメモ帳の切れっぱしかなんかに、汚い字で書かれた、わたしはここに居ます、というメッセージ。
あなたはそこに居ますか。わたしは、ここに居ます。
きょうは、真冬とは思えないほど、あたたかく晴れたよい一日でした。渡り鳥の一群が、いま、東京の青い空を横切ります。もしあなたがそこに居るのならば、連絡ください。気が向いたら文通でもしてください。待っています。
とか、なんとか。

汚れた川にぷかぷか浮かぶ小壜は、いったいどういう確率で、だれかに届くんだろう。
いったいどういう確率で、どこかでなにかを待ちわびる だれかの心に響くんだろうか。
そしておっさんは、その日をどんなにか待つんだろう。

などと考えていたら、めまいがして、ひとこと説教してやるのが億劫になった。
欄干によりかかり 光を反射する川の流れと 浮き沈みするリポDを見送るおっさんを横目に、わたしは橋を渡った。

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gallop

gallop画像 読んだり、飲んだり、途方に暮れたり、

  • 2010/11/18更新
  • 2005/10/26登録

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